かずのこはプリン体含量が少ない食品か?

 世の栄養士には二種類あって、すなわちそれは管理する栄養士と管理される栄養士です。わたくしは残念ながら後者ですので、生活時間から給料の使い道といった基本的な事柄から水着の女性に出会ったときの目のやり場といった些細なことまで、管理するほうの栄養士によってそれはそれは厳しく管理されています。

 これはもう仕方がないこと、生まれが違いますものと着物の袖を涙でぬらし半分諦めていたところ、長年の奉公が認められ、管理するほうになってもいいとの許可がそろそろ下りるというのです。管理するほうと管理されるほうではもちろん管理するほうがいいですので、それならばととりあえず模試なるものを受けたのが一ヶ月ちょっと前のことなのでした。

 試験のほうは無事に終わり、会場でもらった解答集なるもので答え合わせをしていたところ、気になる一文を見つけました。高尿酸血症に関わる問題だったのですが、解答集によれば、かずのこは総プリン体の極めて少ない食品だというのです。

 そんな馬鹿な、とわたくしは鼻で笑いました。プリン体っていえばDNAを形成するアデニン、グアニンのプリン塩基とかそこらへんのことを言うに違いなく*1、かずのこは魚の卵、DNAの塊じゃない*2、そんなかずのこのプリン体含量が少ないわけないじゃない。と、わたくしはこのようにイメージし、また考えたのでした。

 なにもこのようなイメージはわたくしのみが持っていたわけではなく、わたくしに極めて近い人物であるところのわたくしの母も、そのように考えておりました。高尿酸血症の気がある彼女は、実際のそのイメージからかずのこを食べるのを多少は控える、といった行動をとっていました。つまり、わたくしの周りのごくごく狭い範囲では、共通のイメージとして持たれているものなのです。

 もちろんわたくしは、繰り返しになりますが管理されるほうの人間ですので、その知識もまた、管理するほうの栄養士によって巧みに管理されています。毎日就寝前になると、真っ白の壁と真っ白な天井に囲まれた立方体の部屋、その中央にぽつんと置かれた専用の椅子に座らされ、美容室にあるようなパーマをかける機械のようなものを頭に装着されます。その日1日に新たに得た知識をチェックされるのです。不要と判断された知識については削除され、必要と判断された知識はそのままに、その時点で不足していると思われる知識があれば脳内のしかるべき位置に挿入されます。「これでいい、おやすみ」と送り出される頃には、常にわたくしは、整理された記憶とくりんくりんの髪の毛をしているのです。

 ですので、もし仮に、かずのこやいくらが総プリン体含量の少ない食品であるとしても、知識にそのことが入っていないのは、わたくし自身に何の責任もないのです。その問題を間違ってしまったのもしょうがありません。しかし一方で、解答集のその記述に、若干というには少々大きい疑問を持ったのも事実です。というのも、解答集には頼りないと感じられる記述がほかにも見受けられるのです。

 というわけで、そのまま鵜呑みにせずにもとの情報に当たってみましょう。

 高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインにもともとの情報が載っていました。それによると、100gあたりの総プリン体量が300mg以上だとプリン体が「極めて多い」、200mg〜300mgで「多い」、50mg〜100mgで「少ない」、50mg以下で「極めて少ない」と分類されていて、一般的に200mg以上の食品を「高プリン食」というそうです。

 300mg以上の食品としては、鶏レバー、マイワシ干物、イサキ白子、かつお節、煮干し、干ししいたけと並んでいて、200mg以上の食品には、豚と牛のレバー、かつお、マイワシ、あとは干物系が並びます。まあ、乾物が100gあたりの含量で多くなるのはむべなるかなとは思います。

 で、肝心のかずのこなのですが、、すじことともに、しっかり50mg以下の食品、つまりは「極めて少ない」食品に並んでいました。どうやら解答集は正しくて、間違っていたのはわたくしとわたくし周辺の思い込み、怠惰だったのはわたくしの知識を管理する者どもだったのです。

 というわけで、母とともに、高尿酸血症のあるわたくしもまた、今年のお正月は心置きなくかずのこを食べたのでした。めでたしめでたし。

*1:つまり、詳しく知らないんですけどね。

*2:もちろん、どの細胞だってDNAあるんだけど!