天賦の才がものをいう
「誰でも料理はできるけど」クリストフはフランスの有名なことわざを訳して教えてくれた。「ソース作りには生まれもっての才能が必要なんです」
(『ステーキ!*1』p101)
いや確か、別の場所で違う意味に使われていたのを読んだ気がするなあと思って心当たりの本を探してみれば、ありました。
料理人にはなれても、ロティスール(焼き肉師)は生まれつきである。
(『フランス料理の「なぜ」に答える*2』p112)
これは「散文家にはなれても、詩人は生まれつきである」という古いラテン語のことわざを、ブリヤ=サバランがもじって言った言葉だそうです*3。この言葉を紹介しているとき、著者は(言葉の意味には反していますが)肉をローストするときの規則について説明をしています。一方、上で紹介したクリストフがそのとき何をしようとしていたかといえば、干し草を使ったソースを作ってご馳走してくれようとしていたのです。双方が異なる状況のときに使用しているので、単純な誤訳であるとはあまり考えられません。
肉を焼くロティスールなる役目の人がソース作りまでするのです、だから両者は矛盾しないのです。というのもありそうだとは思うのですが、一事が万事こんな調子で、結局すべての役割について天賦の才が必要ですと言われるのではないかと、勘繰ってしまったのでした。