そのひとクチがブタのもと

そのひとクチがブタのもと

そのひとクチがブタのもと

 この本はタイトルで損してる。キャッチーで目を惹くとタイトルだと思うけど、このタイトルだとぱっと見た人はダイエット関連本としか受け取ってくれないんじゃないかと思う。でも実際は、ダイエット関連というよりはデザインとか心理学とかに関連する本なんじゃないかと思う。

 たとえば、刑務所で太る理由を説明するところ。

全身を包むオレンジ色の受刑服はあまりにもゆったりしていて、少しずつ――一週間に四五〇グラム――贅肉が増えていても釈放まで気づかず、いざ私服に着替えようとしたら自分の服が入らなくなっていたというわけだ。(p47)

 あるいは、食行動がパッケージによって変化することをさまざまな実験を通じて示し、

結論――どんな商品であれ、大きなパッケージのほうがよけいに消費する。(p68)

なんていうところ。

 感動したのは、食品を制限するダイエットが効果を発揮する理由について述べた箇所だ。

どれもある程度の効果が出るのは、同じものばかり食べることにうんざりするからだ。その結果、食べる量が減り始める。(p78)

 リンゴやバナナが体重を減らすなにかしらの成分を持っていて、それが効くから体重が減るわけじゃないんだ。食品を限定することに意味がある。だから、アトキンスダイエットの亜流でわかりにくいルールで制限食品を緩和するようなのが出てくると、それはあんまり効かないんだそうだ。

 このように、この本は人間の食行動をデザインとか心理学とか、その種のことで見ていこうという本で、そりゃ結果的にダイエットに使える方法は見えてくるだろうけれど、それを目的に買う人だけじゃもったいない。内容だって素晴らしいし、文章だって楽しいんだから。

 数年前、ニューハンプシャー州ハノーヴァーにあるフレンチスタイルのレストランのメニューには、「礼儀正しい牛肉を春風のようにさわやかなメダイヨン(円形にカットした肉)にして」と描写された料理があった。礼儀正しいビーフ? 「これから六時間後にはメインディッシュになることはわかっていますけど、でも、かまいませんの。わたしの話はもうやめにしましょう。あなたはお元気ですか?」などと言う牛がいるのか?(p129)