不意に、離乳食のアレルギー除去効果について調べてみる
というのも、母乳から抗体を受け取るために赤ちゃんの消化管は未発達で、タンパク質を十分に分解しないで(あるいは分解できないまま)受け入れるようになっていて、
このようにして消化を免れて体内に入ってきた食物タンパク質分子が免疫系によって異物として認識されることが、食物アレルギーやアトピーの引き金を引くのではないか。このような考察が成り立つのである。
『もう牛を食べても安心か (文春新書)』(p122-123)
という記述を思い出した一方で、そういえば厚生労働省の授乳・離乳のガイドラインにはアレルギー除去食必要ないとかって書かれてなかったか、と思ったからだ。消化管未発達で消化できないこととアレルギーが関係しているなら、離乳食時に除去しておいたほうがよさそうなものだ。なのになんで必要ないんだろうと思ったんだ。
調べてみると、授乳・離乳の支援ガイドにはそんなこと書いてない。多分読んだのはこっちの食物アレルギーの診療の手引き2005だ。
妊娠中・授乳中にアレルギー性疾患発症予防のために食物制限を行うことは十分な根拠がないために通常勧められていない。欧米でのハイリスク児に対する対応を以下に示し、この“診療の手引き2005”での検討委員会としてのコンセンサスを示す。
AAP 2000 ESPACI/ ESPGHAN, 1999 食物アレルギーの診療の手引き2005 ハイリスク児の定義 両親・同胞に2人以上のアレルギー疾患 両親・同胞に1人以上のアレルギー疾患 両親・同胞に食物アレルギー 母親の妊娠中の食物抗原除去 ピーナッツ以外は推奨しない 推奨しない 推奨しない(偏食はしない) 母親の授乳中の食物抗原除去 ピーナッツ・ナッツ類除去(卵・牛乳・魚も考慮) 推奨しない 推奨しない(偏食はしない) 乳児期の加水分解乳 推奨する 推奨する 医師の指導の下推奨する (『食物アレルギーの診療の手引き2005』p8)
ハイリスク児に対する加水分解乳は推奨しているものの、その他の妊婦・授乳婦に対するアレルゲン除去はやっぱり推奨していない。十分な根拠がないからだそうだけど、その「十分な根拠がない」部分が授乳・離乳の支援ガイドの参考に詳しく載っている。ただ、「根拠がない」という割には肯定的なものが多く載っていて、
- いわゆるハイリスク児の妊娠後期にアレルゲン除去を行い出生後は行わなかったケースでは、対象群と比較してアレルギー疾患の発症率に有意差がない。
- 妊娠中の母親の食物制限により、出生した子供のアレルギー疾患発症の予防効果があるというエビデンスはない。
の一方で、
- アレルギーの家族歴のある母親が妊娠中から牛乳、卵、ナッツなどを除去すると、アトピー性皮膚炎の発症率が低下し、重篤度も低下する。
- 授乳中の母親の食物制限は、乳児期早期のアレルギー疾患発症に対してある程度の予防的効果が認められた。
とある。
食物アレルギーの診療の手引き2005でも「医師の指導の下推奨する」となっていた加水分解乳では、母乳と加水分解乳の組み合わせは、母乳と一般調整乳または豆乳の組み合わせの群と比較して「湿疹や喘息などのアレルギー疾患の発症予防効果が5歳になるまで継続的に認められた」(『授乳・離乳の支援ガイド』p49)っていうんだから、まあ薦めるのも納得がいく。ただし、完全母乳栄養でもこれは認められているから、わざわざ母乳を与えられる環境にあるのにアレルギーが心配だからと加水分解乳にする必要はまったくないみたい。
離乳食を開始する時期については、「生後4か月までに、4種類以上の固形物を摂取した群では、固形物を摂取しなかった群と比較して、2歳、10歳までの慢性湿疹の既往が高かった」(『授乳・離乳の支援ガイド』p49)のをはじめとして、少なくとも短期では固形物摂取を遅らせることがアレルギー発症のリスクをある程度の予防効果があるが、長期では明確なエビデンスはない、とのこと。
これを素直にまとめれば、
- 妊娠中の食事制限によるアレルギー疾患発症の予防効果はない。
- 授乳中の母親の食事制限は、乳児早期のアレルギー疾患発症に対してある程度の予防効果がある。
- 完全母乳栄養か、母乳と乳清加水分解乳の組み合わせは、母乳と一般調整乳または豆乳の組み合わせに比較してアレルギー性疾患の予防効果がある。
- 生後4ヶ月までに固形物を与えると、アレルギー性疾患発症のリスクが高くなる。
となる。食物アレルギーの診療の手引き2005でハイリスク児の授乳中母親に食事制限を「推奨しない」っていうのはどうしてだろう。偏食のリスクのほうが高いってことだろうか。それとも、研究の信頼性が薄いんだろうか。