食事摂取と作業と心理
できれば自信を持って「朝食は大切」と言いたいでは、「朝食摂取が持つ知的作業への影響」を見ました。朝食に500kcal摂取する群(適正食群)と100kcalしか摂取しない群(不適正食群)とに分けて、知能テストの5つの項目(置換問題、異同弁別問題、抹消問題、計算問題、創造性問題)、それからクレペリンテストの結果を比較するというものでした。このうち有意差のあったものは、知能テストの抹消問題で「適正>不適正」、クレペリンテストの総合評価で「適正<不適正」でした。
今回CiNiiで見つけた「食事摂取が精神活動に及ぼす影響」は、これと同じような実験をしています。
を行うというもの。
結果は、クレペリンテストで
となって、PMOSで
- 緊張・不安では有意に「摂取群<非摂取群」
- 抑うつでは有意に「摂取群<非摂取群」
- 過敏・怒りでは有意に「摂取群<非摂取群」
- 活動性では有意に「摂取群>非摂取群」
- 疲労では有意に「摂取群<非摂取群」
- 混乱では有意に「摂取群<非摂取群」
となったそうです。
つまるところ、食事を摂取した群は摂取しなかった群に比べて、作業量が多く、その作業は正確で、緊張や不安や抑うつ、過敏・怒り、疲労、混乱が少なく、高い活動性を持っていたということになります。顕著な影響がなさそうだった「朝食摂取が持つ知的作業への影響」とは異なる結果です。
指標は異なるので一概に言えないんでしょうけど、両者で一致しそうな点は、
- 正確性:「摂取群>非摂取群」
一方では「視覚的弁別の確かさと判断、反応の速さ」「注意の持続、弁別・判断、反応の速さ確かさ」を見る知能テストの抹消問題で「適正食>不適正食」で、もう一方では、クレペリンテストの誤答数で「摂取群>非摂取群」
- 作業の変動:有意差なし
一方では「気力や疲労の度合い、あるいはコントロール機能の安定等」を見るクレペリン後期上昇率で「有意差なし」、もう一方では、「気持ちや作業がどのように変動するかの指標」であるクレペリンテスト「動揺率」で「有意差なし」
また、両者で異なりそうな点は
- 作業量
一方では「有意差なし」、もう一方では「摂取群>非摂取群」
一方では「気力や疲労の度合い、あるいはコントロール機能の安定等」を見るクレペリン後期上昇率で「有意差なし」、もう一方では、PMOSの疲労で有意に「摂取群<非摂取群」
でしょうか。
ただこの実験、実験の食事摂取時間が、一日目17:00、二日目15:00で、実験日に被験者は、実験開始の食事まで食事をしていません。したがって、「食事摂取」を「朝食摂取」にそのまま置き換えることはできないでしょう。
前日何時に夕食をとっているか知りませんが、一般的には遅いだろう21:00と仮定しても、一日目で20時間、二日目で18時間食事をしていないことになります。食事調査の結果から見られる一般的な児童の夕食時間19:00〜20:00から、朝食を摂取せずに昼食まで我慢していれば、19:00で17時間、20:00で16時間ですから、昼食間際の4時間目の状態ととらえればおおきく外れている時間でもないですが、少なくとも1、2時間目の様子ではないでしょう。
そのほか、紹介されてる先行研究から
この論文、問題提起と考察で先行研究がよくまとめられていて*8、それを読むだけでも一通りつかめて面白い。それら先行研究では、
- 「朝食摂取の効果は、記憶に関連しない知能テストには影響しない」
- 朝食摂取の効果は、注意課題や意味記憶課題では見られない
という結果が報告されているそうです。「朝食摂取が持つ知的作業への影響」で抹消問題以外の知能テストでは有意差なかったことは、前者の結果とほぼ一致するところでしょう。
*1:Profile Mood State。なんでも気分を調べるものらしい。初耳でまったく知らない。
*2:これをもって、「精神作業の速さ」としている。
*3:これの少なさを持って、「正確さ」といている。
*4:つまりは摂取群のほうが不摂取群よりも誤答数が少なくて、より「正確さ」があるということ。
*5:これをもって、「発動性」(「気持ちや動作がどのように動き始めるかの指標」)としている。また、初頭努力率は「第一行目の作業量の平均作業量に対する比」。
*6:これをもって、「可変性」(「気持ちや作業がどのように変動するかの指標」)としている。また、動揺率は「一行あたりの最大作業量と最小作業量の、平均作業量に対する比」。
*7:一致しそうな点でも挙げてるから矛盾するけど
*8:実際のところは、「よく」かどうかはわからない。先行研究にどんなのがあるか知らないから。