ちょっとどうでもよくなっているコリ回路

 問題を間違えた試験からも日にちが経ち、ヌクレオチド代謝をまとめてエネルギーを発散した結果、ちょっとどうでもよくなっているコリ回路についてです。

 筋肉などで生じた乳酸を肝臓でピルビン酸を経てグルコースにまで代謝して、再び血中に放出されてどこぞの組織のエネルギー源となる経路のことを言います。乳酸は

こんな構造をしていて、ピルビン酸は

こんな構造をしています。真ん中の炭素にくっつくのが、OなのかHとOHなのかの違いだけです。肝臓に運ばれた乳酸は、NADに水素を2つ渡してピルビン酸になります。

 そのあとの経路は、「糖新生のお勉強」でお勉強した通り。オキサロ酢酸を経由してホスホエノールピルビン酸になり、解糖系を逆行してグルコースまでたどり着きます。

 ついでにハーパーさまでコリ回路と同じ項にあった、グルコース-アラニン回路についても見ておきましょう。

 血中グルコースが低下すると、肝臓のグリコーゲンが分解されてグルコースとして血中に放出されて、血糖を維持します。グリコーゲンは肝臓だけではなく筋肉にも存在しているのですが、筋肉のグリコーゲンは直接的には血糖の維持に役立ちません。

 グルコース 6-リン酸のグルコースへの変換は、グルコース-6-ホスファターゼによって触媒される。この酵素は肝臓と腎臓に存在するが、筋肉や脂肪組織には存在しない。
(『イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書27版』p185)

 「糖新生のお勉強」で見た、糖新生で解糖系をそのまま逆行できない場所のひとつ、グルコース 6-リン酸→グルコースの変換を行う酵素が、筋肉には存在しないのです。そのため、筋肉では蓄えられているグリコーゲンを用いて自身のエネルギーを産生することはできるものの*1グルコースを作ることはできません。

 したがって、空腹時において肝臓のグリコーゲンはグルコースとして血糖維持に役立ちますが、筋肉のグリコーゲンではそれはできないのです。

 そのかわり、筋肉からはアラニンというアミノ酸が放出されます。このアラニン、

こんな構造をしていて、先ほど見たピルビン酸とよく似ています。真ん中の炭素にくっついているのが、OなのかHとNH2(アミノ基)なのかの違いです。筋肉から放出されたアラニンは肝臓でアミノ基を手放してピルビン酸となり*2、その後オキサロ酢酸→ホスホエノールピルビン酸→→グルコースになって、血糖の維持に貢献することとなります。

 面白いことに、空腹時に筋肉から放出されるアラニンの量は、筋肉のたんぱく質を分解して得られる量よりも多いんだそうです。

 空腹時には、骨格筋からかなりの量のアラニンが放出される。その濃度は、骨格筋たんぱく質の異化によって生じる濃度をはるかに超えている。
(同 p190)

 なぜか。筋肉に貯蔵してあるグリコーゲンを分解して解糖系でピルビン酸を作り、そのピルビン酸にアミノ基を転移してアラニンを作っているから、だそうです。

 残念ながら、ぼくら*3の力ではグリコーゲンからグルコースを作ることはできない。しかし、アラニンにすることはできる。遠回りにはなるが、いったんアミノ基をつけてアラニンにして、それを肝臓まで送ろうじゃないか。そうすれば肝臓が、アラニンをグルコースにしてくれるはずだ。肝臓なら、きっとそうしてくれる。

 涙なしでは語れない、筋肉の肝臓に対する信頼感が見え隠れする、グルコース-アラニン回路のお話でした。コリ回路はやっぱりどうでもよかった。

*1:解糖系は進められるので。

*2:もうひとつのHは? あとピルビン酸の真ん中に二重結合してるOは? 「生化学 (チャート基礎医学シリーズ (7))」p40のアスパラギン酸とαケトグルタル酸のアミノ基転移反応だと、アスパラギン酸のアミノ基はαケトグルタル酸に、αケトグルタル酸のOがアスパラギン酸に転移していて、また、Hに関してはアスパラギン酸の反応ではNADにもらわれていっている。アラニンのアミノ基転移反応も相手はαケトグルタル酸らしいし、同じ反応なんでしょう。

*3:筋肉