映画「キング・コーン」

 映画「キング・コーン」を見た。

 アメリカ人はコーンでできている、というくらいたくさんのコーンを食べているらしい。そのほとんどが、コーンシロップやコーンを食べた畜肉という、見えないコーンだ。農業未経験の若者二人がコーン栽培を通じて、なぜアメリカではそんなにコーンがとれるのかを追ったドキュメンタリー映画

 だと思うんだけど、どうも僕には、いまいち彼らが問題としている部分がよくわからない。

 映画内の説明によれば*1アメリカは70年代にそれまでの生産調整にお金を払うのをやめ、作れば作っただけ補助金がもらえる制度になって、コーン栽培は一気に拡大路線に転じる。その結果価格が下がって、余剰のコーンができて、余ったコーンはコーンシロップや家畜のえさにされる。今ではコーンシロップはほとんどの品物に入っていて、それが糖尿病や肥満の原因となっている。

 一方で、家畜だってコーンによる健康被害を受けている。牛はそもそも穀物を食べるようにできていないから、ずっとコーンを食べさせていると、胃に穴があくという。それを防ぐために、抗生物質を投与することになる。

 また、コミュニティの崩壊だって深刻だ。拡大路線に転じた農業で、小さな農家は立ち行かなくなって農村を去る。彼らの土地は、残った農家のものになって大きな農家はさらに大きくなっていく。昔ながらの農村風景はなくなってしまった。

 たぶん、上のようなことがアメリカ農業の問題点なんだろうと思う。でも、その拡大路線のおかげで、収穫量は飛躍的に増加したんじゃないの? 映画の中で、何度も言っていた。

私たちは史上初めて、食糧が余る時代に生きている。

 食糧が余る時代だよ。この映画を見ていると、日本で食糧危機食糧危機言っているのが、嘘みたいに感じる。向こうは食糧余って、サイロに入りきらなくて、春まで外にコーンが山と積まれているんだよ。

 「何が食糧自給率を低下させるのか」によれば、日本の農政は

しかし、実際の農政は農家所得の向上のためのコスト・ダウンではなく米価を上げる道を選んだ。米の消費は減り、生産は増え、30年以上も生産調整を実施している。

と、政策転換前のアメリカと同じようなことをしている。逆に言えば、日本だってできるんじゃないの? 食糧が余るような農業を。地産地消は体にいいんです、環境にいいんです、だから食べてくださいではなくて、たくさん作って安くなった作物が並べば、自然とみんなそちらを食べるでしょう。

 映画を見ている間、問題点として出てくることよりも、そんなことばかり考えていた。

補足

 公式サイトストーリー・イントロダクションに、次のような記述がある。

近所の農夫に手伝ってもらい、遺伝子組み換えされた種子や強力な除草剤を使うことによって、農業初心者でありながら驚くほど簡単にトウモロコシを植え育てていく・・・。

 これ、なんかミスリードしてる気がする。

 遺伝子組み換え種子は、たぶんグリホサート耐性*2などの除草剤耐性を持った種子でしょう。これら、非選択性除草剤*3に耐性を持つ遺伝子組み換え作物では、

雑草の発育に合わせて、非選択性除草剤を効果的に散布できる。その結果、農薬の散布回数や使用量が減少した。また、雑草防除法として行ってきた鋤きこみが不要になり、表面土壌の流出が抑えられた。
(『遺伝子組換え植物の光と影』p46)

 遺伝子組換えカブの農場試験を行ったデンマーク国立環境研究所では、実際、「遺伝子組換えカブは環境によい」という報告を出しました。
(『遺伝子組換え作物―世界の飢餓とGM作物をめぐる論争』p52)

というように、除草剤の使用量は少なくなる。非選択で多くの植物を枯らすのだから「強力な除草剤だ」ということなのかもしれないけれど、除草剤使用による環境への影響は少なくなる。

*1:それと、僕の記憶に間違いがなければ。

*2:以前見たように、除草剤グリホサートは芳香族アミノ酸を作る代謝系(EPSPS)をブロックすることで、除草剤として機能する。グリホサートの影響を受けないEPSPSか、グリホサートを分解する酵素遺伝子を持っている植物は、グリホサートの影響を受けずにすむ。

*3:多くの植物に効果のある除草剤のこと。対義語:選択性除草剤