低LDLコレステロールと死亡率を調べてみた

 コメント欄で指摘されたので、低コレステロールと死亡率の関係でも調べてみようかと思い立ちました。これとかこれとか、日本臨床の増刊号でもあたれればもっと詳しくわかりそうなものだけど、とりあえず手近なところで「日本人では低LDLコレステロールで死亡率が上昇する*1を読んでみました。

  • 神奈川県伊勢原市で、1987-2006年の間に老人基本検診を2回以上受診した人が対象
  • 男性9,949人(平均年齢64.9歳)、女性16,172人(平均年齢61.8歳)の追跡調査

 結果のほうは、

このようなものだったとあります*2。これを見ると、男性ではLDLコレステロール値が低いと死亡率が上昇しているのが見て取れます。女性では男性ほど大きな影響はないようですが、120mg/dl以上のほうがそれ以下よりも死亡率が低くなっているようです。従いまして、男性においては100mg/dl、女性では120mg/dl未満のような「低LDLコレステロールで死亡率が上昇する」と、このように仰るわけです。

 グラフからは、確かにそのような傾向は見受けられると思います。ただ、食事摂取基準さまは

 血中総コレステロール値が低い集団(160mg/dL以下)は死亡率が高い。これは血中総コレステロール値が低いために死亡率が高くなるのではなく、感染症、がん、肝疾患、気管支炎、胃潰瘍、および貧血の基礎疾患をもった人は血清総コレステロール値が低くなるので、死亡率が高くなるためと考えられる。
(「厚生労働省策定 日本人の食事摂取基準〈2005年版〉」p56)

と仰られています。つまり少なくとも今のところ、低コレステロールは原因ではなく結果ではないかと考えられているわけです。この追跡調査ではその部分の検証がないので*3、やはり「低LDLだから死亡率が上昇する」とは言えないでしょう。*4

 あと気になる記述で

また、最近の研究で心筋梗塞の真の原因は「持続する血管の炎症」であることが示されました。LDL-Cは炎症部位の修復に貢献しているだけなのです。
(「日本人では低LDLコレステロールで死亡率が上昇する」)

というのがあるんですけど、これって動脈硬化の脂質仮説*5とは別物なんでしょうか。

 脂質仮説は、過剰のLDLが血管内皮下で酸化されたのちにマクロファージに取り込まれ、たくさんの酸化LDLを取り込んだマクロファージは泡沫細胞となって、そのあとなんやかんやで粥状動脈硬化になるっていうものだと理解しています。この仮説だと、酸化LDLははじめに「過剰の」なので原因としての高コレステロールだと思いますが、上の引用文だと炎症の結果としての高コレステロールと読み取れます。

 もともとの読み取りが間違っている可能性もありますけど。

*1:大櫛陽一 臨床栄養 vol113 No.1 p10-11

*2:グラフから読み取った数値を入力して再グラフ化しているので、正確ではありませんがほぼ同じような値はとれていると思います

*3:原因別死因のグラフもあって、それからは、低LDLでがんが増えていること、低LDLで「その他」、つまりは「悪性新生物」「呼吸器系」「虚血性心疾患」「他心疾患」「脳血管疾患」「外因」によらない死亡が増えていることは伺える。

*4:もうひとつ手近で読めそうな「低コレステロールは死亡率を高めるか」を忘れないようにメモ。タイトルからして今回読んだのと逆の主張がされてそう。

*5:スタインバーグとかラッセル・ロスとかと、のちのちなんのことかわからなくなったときのために記しておく。