やせは体に悪くない?

 世の中にはBMIという指標があって、これは体重kgを身長mの二乗で割った値のことです。この値が22.0であれば理想的、18.5〜25.0であれば普通、18.5未満はやせ、25.0以上は肥満であるとされています。なぜ22.0が理想なのか、なぜ18.5〜25.0の範囲に体重をおさめるのがよいのかと問えば、それくらいの体型が健康的であるからだとの答えが返ってきます。では健康的とはどういうことだと続けて問えば、おそらくは死亡率の低さだとの答えが返ってくるでしょう。

 日本人男女を10年間追跡した結果で、地域、年齢、喫煙習慣、飲酒習慣、教育歴、運動習慣、20歳以後の体重変化の影響を調整したもの、だそうです*1。これを見ると、BMIが低くても高くても死亡率が上昇し、適正な範囲があるんだなということがわかります*2

 BMI値に関するガイドラインでは、多数のグループに分けた人々の死亡率を調査しており、もっとも低い死亡率の人たちのBMIを”健康な範囲”として選んでいる。通常、両端で死亡率が上昇したU字型のカーブが描かれるので、これらのカーブはやせすぎは太りすぎと同じくらい健康によくないということを示す。
(「体重が健康に及ぼす影響」臨床栄養別冊 メタボリックシンドロームを防ぐ「グッド・ダイエット」 )

 はい、U字型が描かれていて、やせすぎは太りすぎと同じくらい(あるいは、より)健康に悪いことが示されていると思います。

 でも、引用文の続きでは、そのような解釈は間違っているという話になります。コレステロールの話でも出てきました、原因と結果の取り違えです。BMIが低い人の死亡率が高く見えるのは、すでになんらかの原因でやせてしまっていて、同じなんらかの原因によって死亡率が上昇するのだ、やせは結果であって、原因ではないというのです。

やせすぎもまた早死のリスクを増大させるのだという人たちがいる。また他方では、そのような単純な原因と結果論による解釈は誤解を招きやすいと考える人たちもいる。(略)少ない体重は必ずしも早すぎる死を引き起こす原因となっていない可能性もある。つまり、命取りになるような病気が原因でやせている場合もあるということにすぎないのかもしれないのである。
(同上)

 「命取りになるような病気でやせている」人の影響を排除するために、非喫煙者だけを対象に、調査開始後数年間に亡くなった人をのぞいたデータを調査した米国がん協会の10年間に及ぶ調査では、

死亡率はBMIの低さに比例して着実に減少しており、BMIと死亡率が一直線につながっていた。
(同上)

といいます。したがって、病気によるものではなく、また肉体的に活動的でありさえすれば、BMIの低さはリスクの上昇ではなく、減少を意味するのだとしています。

 しかしそのうえで、女性のやせには注文をつけていて、

妊娠中のやせおよび体重増加低下は新生児の出生児低体重、つまり胎内において相対的飢餓状態を起こすというものである。すると、胎内で抗肥満ホルモンが低下するため、出生後に人工乳などによる過栄養状態に曝露されると、その影響が出やすい。
(同上)

産まれた子どもの肥満・インスリン抵抗性・糖尿病の原因になるから、若い女性がやせているのはよくない、と言っています。

 最初に出したBMIと総死亡率のグラフが、なんかいろいろと調整した上のものだった点と、今までの常識*3からまだしっくり来ていないのですが、もしこれが正しいとしたら、たぶん一番やせ願望が強い若い女性のみ、やせるのはよくないですよという話ですから、結構酷な話です。

*1:わかりやすいEBNと栄養疫学』p193 File7-39

*2:でもこれ、改めて見るとやせ方面は扱いひどいなあ。18.9以下ひとまとめでしょ。あとこれからだと、男性はやや太り気ぎみ(28.9)くらいまでのほうが、普通範囲のやせ側(19〜20.9)より死亡率低い。18.5〜25.0がいいというのは、女性には的確に当てはまりそうだけど男性にはやや当てはまらないんじゃないか?

*3:BMI低すぎるのはよくありません!