環境と人に優しい農薬

 先日、農薬については無知だから農薬の農家や環境等への影響についてはわからないと言ったわけですが、いつまでも無知を振りかざして許される歳でもありませんので、『食品安全性セミナー〈3〉残留農薬』でお勉強をしてみました。すると、わたくしの農薬に対するイメージからすると意外なほど、環境負荷に対する試験があるようなのです。

 たとえば、映画「未来の食卓」では農薬の地下水への悪影響が語られていたわけですが、水系の環境生物に対する影響評価なんてのもあります。「水産動植物への影響に関する試験」と「水産動植物以外の有用性物への影響に関する試験」です。

 前者は、

水産業に及ぼす被害を防止するための農薬の安全使用法に関する情報として、登録の際に中央致死濃度がコイ(LD50:96時間後)とミジンコ(EC50:48時間後)で求められ、その結果から各農薬の魚毒性がランク付けされる。
(『残留農薬 食品安全性セミナー3』p32)

というもので、藻類に関しては2001年2月に追加されたそうです。後者については残念ながら詳しく記されてはおりませんが、「カイコ、蜜蜂、寄生バチや捕食性ダニなどの天敵、土壌中のミミズやトビムシ、土壌微生物などの有用生物に対する農薬の影響」(同 p33)を見るもので、影響が許容できる範囲のものか、生態系を崩さないかが調べられています。

 また、生物濃縮や選択性についても、考慮がなされているようです。

生物濃縮係数というのがあってね

 難分解性、難水溶性、高脂溶性の化合物ほど長期間生物濃縮されて毒性を発揮するらしいのですが、生体内の化合物の濃度と、その生物の生活環境中の化合物濃度の比(BCF*1)で、どの程度生物濃縮性があるかどうかを調べているそうです。「各種農薬の牛および魚による生物濃縮係数と水溶解度」という表から抜粋すれば、以下のようになっています。

  水溶解度(ppm) 牛によるBCF 魚によるBCF(流水試験)*2
アルドリン 0.013 2.7 10800
DDT 0.0017 0.9 61600
ディルドリン 0.022 2.3 5800
クロルピリホス 0.3 0.02 450
2, 4-D 900 0.00035 20
ダラポン 502000 0.013 0.6

 上3つがすでに使用されていない農薬、下3つが現在も使用されている農薬になります。現在使用されていないものは見事にBCFが高く、大変分かりやすい結果となっております*3。特に流水試験において、現在使用されている農薬はそうでないものと比べて、著しく生物濃縮性が低減されていると言えるでしょう。従いまして、

水溶解度の小さい農薬ほど濃縮性は大きいといえるが、現在の使用農薬の生物濃縮性は小さくなってきている。
(同 p33)

と結論づけているのも頷ける話です。

選択性も調べられていて

 次に選択性ですが、農薬は対象とする生物があります。対象とする有害な生物にだけ効けばいいのであって、除去する必要のない生物には効かなくていいわけです。対象に効いて、それ以外には効かない。これが選択性です。

 選択性のポイントは5つ、

  • 農薬が生物に到達するか、到達しがたいか
  • 農薬が生物体内へ浸透移行するか、浸透移行しがたいか
  • 生物体内の解毒代謝活性の違い
  • 農薬と一次作用点の親和性の違い
  • 回復機能の違い

なので、対象とする生物には到達しやすく(そうでない生物には到達しづらく)、体内へ浸透移行しやすく(そうでない生物の体内には浸透移行しづらく)、解毒代謝を受けず(そうでない生物ではすみやかに解毒代謝され)、作用点との親和性が高く(そうでない生物の作用点では親和性が低く)、回復が難しい(そうでない生物では回復しやすい)農薬が、優れた選択性を有することになります*4

 一般的には哺乳動物と対象生物の毒性の違いを比較するそうなのですが、ラットとイエバエに対するLD50(mg/kg)を比較した表から抜粋しますと、

ラット(経口) エバ 選択性 登録年
パラチオン 3.6 0.9 4 失効
DDT 118 2 59 失効
フェニトロチオン 570 2.3 248 S46.12
ペルメトリン 1500 0.7 2143 S60.3
クロルフルアズロン >8500 0.24(コガナ) >35416 S63.10

このようなものとなっています。やはりここでも、先ほどの生物濃縮性と同じく、現在使用されているものはそうでないものに比べて選択性が高くなっていますので、

新しく開発された農薬は、非常に優れた選択性を有している。
(同 p278)

と結論づけているのもまた頷けます。

ほか意外だったこと、面白かったこと

  • 残留性も調べられていて、農薬の半減期は短いものが多くなっている。
  • どこまで信憑性あるのかは知らないけれど、「農薬無使用で栽培した場合の減収と出荷金額の減益」なるデータによれば、農薬無使用でりんご、桃はほぼ全滅。
最大値 最小値 平均値
水稲 100 0 27.5
小麦 56 18 35.7
りんご 100 90 97
100 100 100
キャベツ 100 30 63.4
トウモロコシ 28 28 28

(表は収穫減収割合(%)のみ数種抜粋)

  • カプサイシン、カフェイン、食塩、アルコール、砂糖などのLD50は60〜30000mg/kg。
  • 新しく開発される農薬のLD50は5000mg/kg以上のものが多い。

 たぶんちゃんと理解するためには何度か読み込まないといけないんでしょうけどね。

*1:bio concentration factor

*2:もとの表では「牛によるBCF(流水試験)」となっているんだけど、google先生によれば流水試験は流水に化合物(ここでは農薬)を流し続けながら行うもので、対象は魚とのこと。たぶん誤植でしょう。

*3:まあ、だからこそ使用されていないんでしょうけれども。

*4:言っててあまり意味わかっていませんが、なります。p275-278にそう書いてありますし。