農薬はどうやら発がん原因として重要視されていないらしい

 ささやかながら農薬についての知識を獲得しようと『食品安全性セミナー〈3〉残留農薬』を読んでいたら、面白いグラフがありました。がんの原因と思われるものについて、主婦とがんの疫学者にそれぞれ挙げてもらってその割合を示したものです。これを見ると、主婦——というか、一般の人——がイメージする発がんの原因が、実は専門の疫学者によればまったくとるにたらない要素でしかなく、また逆も然りなことがよくわかります。*1

 一目瞭然なのですが、一般の人はがんの原因として、圧倒的に食品添加物と農薬を挙げています。しかし、それらに対してがんの疫学者はほとんど重要視しておらず、一般の人ではがんの原因としてイメージされない、普通の食べ物を挙げている割合が多いです。ここら辺、「「学校給食」と映画「未来の食卓」」のコメント欄で教えていただいた「映画「未来の食卓」に見る情報操作」のかたが、

「ヨーロッパでは、癌や糖尿病などの生活習慣病の70%は食習慣を含む、環境に原因があると言われています」と言っている。そうだ。そのとおりだ。
(略)
しかし、その食生活というのは、オーガニックのものを普段食べているかどうかではない。普段自分が食べているものの中身のことだ。

映画「未来の食卓」に見る情報操作

と指摘している通りなのだなあと思います。

 専門家ががんの原因として「食事」を挙げたとき、その専門家がイメージしている「食事」の内容と、受け手である一般の人がイメージする「食事」の内容が、そもそも異なっているのかもしれません。専門家がイメージしているのは「普通の食べ物」や「食習慣」なのに対して、一般の人ではその食事に含まれる、食品添加物残留農薬といった「(特に人工の)化学物質」だったりする。

 ましてや、「未来の食卓」で行われたように、農薬や食品添加物として使用される化学物質の(量を問わない)危険性を語ったあとに、「がんは食習慣を含む環境に原因がある」と言われれば、両者を結びつけてしまいがちです。しかし、実際はなんのことはない。普通の食べ物、食習慣に原因があるのであって、食品に使われている添加物や、付着している農薬に原因があるわけではない。少なくとも、がんの疫学者はそう考えているということでしょう*2

 このグラフ自体は、1990年の暮しの手帖に載っていたものらしいので、現在ではもう少し、一般のほうでもアルコールや紫外線ががんの原因となると答える人は増えていそうに思います。しかしながら、食品添加物や農薬については、まったくのイメージですが、あまり変わっていないんじゃないでしょうかね。

*1:残留農薬』では数値がはっきり示されていなかったので、いっしょに借りてきた『食品安全性セミナー〈2〉食品添加物』にあった同じグラフを参考にしました。そっちはちゃんと数値入り。

*2:したがって、映画内で「がんは食習慣を含む環境に原因がある」と発言しているユネスコ会議参加者のかたは、もしかしたら食品添加物や農薬がの意味ではなく、「がんは〜」と発言されているのかもしれません。