輸入食品の違反件数・割合を、今度は地域別に見てみた
(2002年(平成14年)における輸入食品について)違反件数は検査対象のわずか0.1%程度であることがわかる。なお、違反の地域別割合では、件数と割合ともに近隣のアジア諸国からの輸入品が多いことをつけ加えておこう。
(『食品の安全性を考える (放送大学教材)』p43)
本当に? 中国食品が特別危険というわけではない、の確認で見たところによれば、そのタイトルにある通り、とりたてて中国産の違反割合は多いわけではありませんでした。しかしそれは「中国」に注目したものであるので、「アジア」に注目してみれば、ひょっとしたら違反割合は高いのかもしれません。
というわけで、再び輸入食品監視統計を見てみましょう。今回は平成20年度のものを参考にしました。
地域 | 検査件数 | 検査重量(t) | 違反件数 | 違反重量(t) | 違反件数割合(%) | 違反重量割合(%) |
---|---|---|---|---|---|---|
アジア州 | 144,351 | 1,442,144 | 659 | 7,769 | 0.457 | 0.539 |
欧州 | 17,746 | 51,006 | 129 | 132 | 0.727 | 0.259 |
北米州 | 22,689 | 4,804,613 | 197 | 45,932 | 0.868 | 0.956 |
南米州 | 3,890 | 73,748 | 68 | 1,701 | 1.748 | 2.307 |
アフリカ州 | 1,680 | 80,468 | 92 | 3,911 | 5.476 | 4.860 |
太平洋州 | 3,552 | 193,238 | 5 | 24 | 0.141 | 0.012 |
合計 | 193,917 | 6,645,216 | 1,150 | 59,468 | 0.593 | 0.895 |
違反の地域別割合でアジアが高いわけでもなければ、違反件数の割合は検査対象の0.1%程度でもありません。『食品の安全性を考える』で参照されている資料が2002年のものという違いはあるでしょうけど、それにしたって数値が違いすぎます。ほんの6年で、違反割合が0.1%から0.6%に増加するとは思えません。
確認のために『食品の安全性を考える』p44にある「輸入食品の検査と違反の状況(2002年)」からそれぞれを計算してみれば、
地域 | 検査件数 | 検査重量(t) | 違反件数 | 違反重量(t) | 違反件数割合(%) | 違反重量割合(%) |
---|---|---|---|---|---|---|
2002年合計 | 136,087 | 2,732,662 | 972 | 38,163 | 0.714 | 1.397 |
こっちも0.1%程度になってくれません。
ひょっとしてこれは、検査件数に対する割合ではなくて、届出件数に対する違反割合なんじゃないかと思って調べてみれば、
地域 | 届出件数 | 届出重量(t) | 違反件数 | 違反重量(t) | 違反件数割合(%) | 違反重量割合(%) |
---|---|---|---|---|---|---|
2002年合計 | 1,618,880 | 33,201,949 | 972 | 38,163 | 0.060 | 0.115 |
違反重量の割合が0.1%程度になりますので、おそらく著者が言いたかったのはこちらでしょう。
平成20年度で同じ統計を見てみれば、
地域 | 届出件数 | 届出重量(t) | 違反件数 | 違反重量(t) | 違反件数割合(%) | 違反重量割合(%) |
---|---|---|---|---|---|---|
アジア州 | 886,547 | 8,259,161 | 659 | 7,769 | 0.074 | 0.094 |
欧州 | 438,841 | 1,785,322 | 129 | 132 | 0.029 | 0.007 |
北米州 | 264,064 | 16,949,002 | 197 | 45,932 | 0.075 | 0.271 |
南米州 | 63,160 | 1,867,569 | 68 | 1,701 | 0.108 | 0.091 |
アフリカ州 | 10,432 | 312,738 | 92 | 3,911 | 0.882 | 1.251 |
太平洋州 | 96,079 | 2,377,306 | 5 | 24 | 0.005 | 0.001 |
合計 | 1,759,123 | 31,551,097 | 1,150 | 59,468 | 0.065 | 0.188 |
となります。
違反割合・重量とも2002年と比較して若干増えていますが、まあ誤差の範囲という気もします。実際、輸入食品監視統計の平成20年度版には、昭和40年からの年次・年度別の届出・検査・違反状況が載っているのですが*1、届出件数に対する違反割合は、昭和58年から平成20年まで、昭和63年に1回0.2%になるほかはすべて0.1%です。年によってそれほど大きく動いているわけではないことが伺えます。したがいまして、近年輸入食品の安全がどうこうというのは、輸入件数の増加から気になってきたのかもしれませんが、割合的にはほとんど25年前と変わらない、ということになります*2。
それにしても、なお、とつけ加えられたアジアの違反件数と割合が多い疑惑についてはなんなんでしょう。違反件数が多いのはその通りですが、検査件数が圧倒的に多いからでしょうし*3、違反割合に至ってはアフリカが圧倒的に高く*4、北米とどっこいです。
まあそんなわけで、中国産毛嫌いする理由も、アジア産毛嫌いする理由も、やっぱりないのでした。