乳糖不耐症があるからって牛乳否定しないでね!

 世の中には牛乳体に悪い説なんてのがありまして、極端なかたになりますと、牛乳は牛の乳であって人の飲む物ではないのだから、体にいいわけがないなんてことを言ったりするのです。

 まあ伝え聞く話によれば、かつて世界には酒の泉がわき出したりパンの実がなったりする、人間さまに都合良く作られた場所もあったそうですから、そのような世界では人がお腹をすかせたときのためにと、神様が人の食糧としてなにがしかを用意してくれたりもするんでしょう*1。あいにくわたくしはそのような世界に足を踏み入れたことがないので、人の食べ物として用意されたわけではない鶏を食べたり、きゅうりを食べたり、ウィダーインゼリーを食べたりします。ですので、人のために用意されたわけではない牛乳を飲むのに、まったく抵抗がないのです。

 そこまで極端でないかたのなかに、乳糖不耐症を問題とするかたがいらっしゃいます*2。毎度おなじみのマーヴィン・ハリス食と文化の謎 (岩波現代文庫)』によれば、成人でも乳糖を分解する酵素であるラクターゼを保持しているのは北方・中央ヨーロッパ起源の人に多く、その他の地方起源の人では少ないそうです。北方の日照時間が短く、またビタミンDを豊富に含む海水魚を摂る機会に恵まれなかった人たちにとって、乳は貴重かつ重要なカルシウム減です。その結果自然選択が働いて、成人でも乳の飲める体、成人のラクターゼ保持者が多くなったとしています。

成人のラクターゼ欠乏は「正常」な状態であり(略)成人の中国人、日本人、朝鮮人、その他のアジアのひとびとでラクトーゼ*3を吸収できるのは、五パーセント以下である。
(『食と文化の謎』p187)

 今日では、「異常」なラクトーゼ吸収者は、アルプスより北のヨーロッパに、濃密に集中していることがわかっている。オランダ人、デンマーク人、スウェーデン人、その他のスカンディナヴィア地方のひとびとの九五パーセントは十分のラクターゼ酵素をもって、一生のあいだに非常な量のラクトーゼを消化吸収している。アルプスから南には高から中レベルの地域が続き、スペイン、イタリア、ギリシャ、そしてユダヤ人、中東の都市居住アラブ人のあいだで中から低レベルへとさがっていく。
(同上)

 ほら、飲めないでしょ。というわけです。

 ところが、乳糖のカルシウム吸収についてで見たように、乳糖不耐症の人のほうが牛乳、ヨーグルトからのカルシウム吸収はいいかもしれないし、そもそもラクターゼなしでも一度に大量に飲まなければ平気な人がほとんどらしいのです*4。さらに今気づきましたが、

成人小腸の二糖類水解速度は、麦芽糖を100%とすると、ショ糖29%、トレハロース12%、乳糖3%(ラクターゼ高発現者17%)である。日本人の成人では、乳糖の水解速度は低い。
(『健康・栄養食品アドバイザリースタッフ・テキストブック 第6版』p11)

乳糖の分解速度はラクターゼ高発現者で17%のところ、通常の日本人*5で3%と、そんなに大差ないんじゃないのと思える程度です。

 このように、牛乳を否定する理由として乳糖不耐症は弱いなあと思っていたのですが、これがどうも、さらに弱くなりそうです。

3つの民族集団の全国サンプルからのデータを用いた調査で、自己申告制の乳糖不耐症の全体の有病率は12%で、自分自身が乳糖不耐症だと思っていたのはヨーロッパ系アメリカ人7.72%、ヒスパニック系アメリカ人10.05%、アフリカ系アメリカ人19.5%だった。
最新健康・栄養ニュース乳糖不耐症率は意外に少ない」*6

「従来、乳糖不耐症はヨーロッパ系アメリカ人15%、メキシコ系アメリカ人50%、アフリカ系アメリカ人80%と推定されていた」(同上)らしいですから、今までの推定よりもかなり低くいですね。

「異常」なラクターゼ保有者は、案外「異常」ではないかもしれません。

*1:してみれば、神様は人の召使いか給仕かシェフだったりするのでしょうか。

*2:って、実際話したことがあるわけじゃないし、ちゃんとした本を読んだことがあるわけでもない。ちょっとネット検索したら出てきたのを読んだ程度。

*3:たぶんラクトース=乳糖のこと。

*4:周囲の人を見渡して、牛乳オッケーな人が5%ってことはないでしょ。

*5:先のマーヴィン・ハリスの話と合わせれば、つまりはラクターゼ非発現者

*6:元記事はこちら