特に専門外の権威には気をつけよう

肉食の思想―ヨーロッパ精神の再発見 (中公文庫)

肉食の思想―ヨーロッパ精神の再発見 (中公文庫)

 日本ではごく当たり前に「主食」なるものがあって、それはたとえばご飯であったり、パンであったりするわけです。ところが、どうもこの「主食」なるものが、ヨーロッパの食風景では見当たらないといいます。

 わかりやすい例えとして挙げられているのがサンドウィッチで、日本ではハムとか野菜とかを挟んだ「パン」を食べる感覚だけれども、ヨーロッパではそうじゃない。食べやすいようにパンで挟んでいるだけで、決して「パン」を食べるわけではなく、「間に挟んであるもの」を主に食べる感覚だとか。

 なるほど、それでこそ脂肪エネルギー比率脅威の40%越えも可能となるわけです。

 で、このようなヨーロッパの食生活がどのような思想をもたらしたのかがこの本の主題となります。曰く、多くの肉を食し身近に家畜のいる生活環境が人間と動物の間の境界を強固なものとし、人間中心主義を生んだ。曰く、肉食を補完する穀物食が、多くの者の協力を必要とすることから社会意識を育んだ。

 面白いことは面白いのですが、論証が甘いのか、それともただ単にわたくしのヨーロッパイメージと異なるヨーロッパ像だからなのかは定かではないのですが、受け入れがたい部分が多々あります。

 ヨーロッパの高い肉食率からでてきた強力な断絶論理が、どのように思想形成に働きかけたかを考える場合(略)
(P113)

 いえ、わたくしはまだ「高い肉食率→強力な断絶論理」の同意書にサインしてませんと言いたくなること山の如しです。

 しかしながら、本書で一番気を引かれたのは本文ではなくその解説、月尾嘉男さんの文章です。月尾嘉男さんと言えば、わたくしはラジオから聞こえる優しい声くらいしか知らなかったのですが、解説の頭についている肩書きによれば東大の名誉教授だというじゃありませんか。これは、権威に弱いわたくしはそれだけでやられてしまう肩書きです。

 その月尾先生、解説中、欧米諸国が肉食はあまりよくないんじゃないかと見直し始めているという流れで、

 直接、肉食を問題にしたのが、一九七七年に発表された『アメリカ上院栄養問題特別委員会報告書』という五〇〇〇ページ以上の文書である。代表のジョージ・マクガバン上院議員の名前から『マクガバン・レポート』といわれるものである。
(P218)

とおっしゃいます。

 マクガバン・レポートに関しては素晴らしい記事がありましたので、いくら権威が来てもわたくしは負けません*1。いやどうもあれ、5000ページなんて大嘘で、実際ここの原文概要でも、最後のページに"The original document is over 70 pages."って書いてあるよ。5000ページに及ぶものを「オリジナルの文書は70ページ以上だよ!」なんて書かないよね普通。

(略)諸悪の根源は肉食にあり、見習うべき食事は元禄時代の日本の食事だとしたことである。
(P218-219)

 いくら権威でも、専門外だとこんなもんなんですね。

*1:って、自分で確認してないのは同じなんだけど。