昼寝はいいことばかりじゃない。かもしれない

 昼寝はいい、という話を聞きます。永きにわたる幼き日のそのいずれかの記憶によれば、「20分の昼寝は夜の睡眠1時間に勝る」と母親かだか父親だかが言っていましたし、最近では昼寝をすると記憶力が上がるなんて話もあります。午後の眠気に襲われずに作業効率もよくなると聞きますし、そんなにいいことづくめなら、こりゃあいっちょ実践してみようかしらんと思っていたのですが、思わぬ難題が待ち受けていました。

頻繁な午睡は高齢成人の2型糖尿病リスクの増大に関連する
2010.3.2 , EurekAlert より: 頻繁に午睡を取るようになる事は2型糖尿病の罹患可能性が高くなること、さらに空腹時血糖が高くなる状態を導くようだという、高齢中国人を対象にした研究からの報告。

海外最新健康・栄養ニュース

 2型糖尿病リスクが増大するかも、というのです。

 ただこれだけだと、どの程度の昼寝でどの程度リスクが増加するのかがわかりません。頻繁に、と頻度に関する記述はありますが、一回あたりの昼寝に費やす時間についての記述はありません。仮に、昼食後2時間優雅に昼寝をする人がこれに当てはまり、それ未満で当てはまらないとすれば、大多数の日本人には関係のないことです。昼食後2時間睡眠をとれる人なんてほとんどいませんから。

 というわけで、ソース元であるところのEurekAlert! の記事を見てみると、健康・栄養ニュースよりももう少し詳しいことがわかります*1。それによれば、

  • 中国は広州で行われたコホート研究のデータを利用
  • 対象者は、13,972名(平均年齢61.4歳)の女性と、5,595名(平均年齢64.2歳)の男性
  • 全体の13.5%が2型糖尿病
  • 毎日昼寝をする人だと、15.1%が2型糖尿病
  • 週に4-6回昼寝をする人だと、14.7%が2型糖尿病

とのこと*2。確かに健康栄養ニュースの見出しにあるように、頻繁に昼寝をする人のほうが、2型糖尿病にかかっている割合が高いです。

 では、昼寝時間との関係はどうなのか。

(実験の参加者3,822名に追加的に睡眠習慣に関する調査を行ったところ)Compared with people who never took naps, the risk of diabetes was 41 percent higher (OR = 1.41) for people who took naps that lasted longer than 30 minutes and 35 percent higher (OR = 1.35) for people whose naps lasted 30 minutes or less.

Frequent napping is associated with increased risk of type 2 diabetes in older adults

 昼寝をしない人と比べて、30分以上の昼寝をとる人で相対リスクが1.41、30分以下の昼寝をとる人では、相対リスクが1.35であったそうです。ライフハッカーの記事にある「午後の眠気にはやっぱり昼寝が効くらしい」では20分の昼寝を推奨していますから、実践すれば昼寝をしない人との比較で相対リスク35%増となるでしょう。

カフェインよりも昼寝のほうがいい?

 また、昼寝賛歌については、次のような記事もあります。

ニューヨークタイムズには、61人を対象にした実験の結果が紹介されています。この実験では、2時間昼寝をした人とカフェインを摂っただけの人の能力を比較。その結果、昼寝をした人の方が言葉の復唱、知覚力、運動能力の結果が、朝に比べてとても良くなったそうです。

カフェインより昼寝のほうが効果大!

■ダブルエスプレッソよりも20分の昼寝
 しかし日中、昼寝のぜいたくを味わえる人はそういまい。コーヒーを飲んで、カフェインで眠気を飛ばそうとする人のほうが多いはずだ。ところが濃いダブルエスプレッソを飲んでも、20分の昼寝の効果にはかなわないのだという。
 感覚情報に基づく知覚に関する記憶ではカフェインも昼寝同様の記憶効果を発揮するが、海馬で処理され意識的な操作が可能な記憶、例えば単語や電話番号、名前を覚えたりといった顕在記憶は、カフェインを摂取するとかえって悪くなるという。

「1時間半の昼寝は1晩分の効果」、睡眠の新発見続々と 米国

 カフェイン飲んで眠気散らすよりも、おとなしく昼寝なさい! というわけです。

 しかしながら、健康栄養ニュースで拾った記事によれば、コーヒー、特に昼食時に飲むコーヒーは、2型糖尿病のリスクを減少させるかもしれないといいます。

今回、1993年に開始された41-72歳のフランス人女性69,532人を対象とした前向きコホート研究の11年の追跡調査の結果から、特に昼食時に1杯以上飲むとよりリスクが低まることが示唆された。

海外最新健康・栄養ニュース

 ソース元のAJCNの記事を見ると、一番コーヒーを消費しているグループ(375ml/day)は、まったくコーヒーを飲まないグループに比べて、2型糖尿病の相対リスクが0.73(95%信頼区間で0.61-0.87)だったそうです。この「コーヒー消費→糖尿病リスク低下」の傾向は、昼食時にコーヒーを飲む人に顕著で、昼食に125mlのコーヒーを飲むグループは、飲まないグループに比べて糖尿病の相対リスクが0.66(95%信頼区間で0.57-0.76)だったとあります。

 昼寝が糖尿病のリスクを上げ、昼食時のコーヒーが糖尿病のリスクを下げる。糖尿病対策で考えれば、昼寝よりもコーヒーを飲んで頑張るのが、正解なように思えます。

まあ、そんなこといっても

 眠気に襲われたら寝るんだけどね。

*1:もちろん、わたくしの英語力は栄養学のそれを下回るので、しっかりした情報が欲しいかたはご自分で読まれることをお勧めします。

*2:しかし冒頭にはまったく昼寝しない人との比較で、毎日昼寝する人が相対リスク1.28、週4-6回昼寝する人が1.36とある。これはどういうことなの? 単純に読み方間違ってる?