お茶が危ないとかどうとか

 はてなで見つけた記事によれば、静岡県知事の発言が問題になっているとか。なんでも、お茶っ葉から基準値を越える放射性物質が検出されたことに対して、「仮に1,000ベクレルだとしても飲用茶にすれば10ベクレル程度になる。飲んでも全く問題ないと考える」と言ったとか。

 この発言について、上のリンクで示したところのコメント欄ではずいぶん否定的に受け取られているんですが、しかしこれってそんなに間違ったこと言ってるんでしょうか。1,000ベクレルのものが飲用茶にすると10ベクレルになるのか、10ベクレルが平常飲んで問題ないものなのかについてはわかりませんが、話の筋道としては間違ってないんじゃないかと思うんです。

 たとえば、農薬の残留基準などは、実際の収穫物にどれだけ残留しているかということだけではなく、それが貯蔵や加工、調理の段階でどの程度消失するかということも考慮して決められているはずです。以前お勉強いたしましたNR*1の教科書*2を参考にすると、FAO/WHOは食品経由の残留農薬物質について、次のような手法で評価しているとあります。

  • 理論1日最大摂取量:最大残留基準いっぱいに残留していた場合の農薬摂取量。
  • 推定1日最大摂取量:最大残留基準いっぱいに残留していた場合の可食部のみについて、貯蔵、加工、調理で消失する分を考慮した農薬摂取量。
  • 推定1日摂取量:実際の残留試験データと食品摂取量のデータに基づく農薬摂取量。可食部のみについて、貯蔵、加工、調理で消失する分を考慮する。

 もちろん理論1日最大摂取量がリスクを一番大きく見積もっていて、次に推定1日最大摂取量が、最後の推定1日摂取量になると、かなり実態に近いリスク評価になっていると言えます*3。まずは理論1日最大摂取量で農薬摂取量を見積もってみて、これで十分安全な範囲となっていればそのまま、そうでないならより厳密に見積もっていくという方法が取られているとあります。

すなわち、まずリスクを極めて過大に見積もることになる理論1日最大摂取量(TMDI)の推定値が、もしADIの80%に至らない(20%は食品以外の飲料水や空気から摂取する可能性のために担保しておく)とすれば、十分安全は確保されていると判断する。もしTMDIがADIの80%を超える可能性のあるときには、FAOの暴露評価指針に沿って得られた実際の作物残留データを用いて、より正確な摂取量の推定を行った上で、作物残留の合計がADIの80%を超えることのないように基準を設定する手法をとっている。(p227)

 このような具合ですので、可食部のみについて、さらには貯蔵、加工、調理での消失を考慮するのは常日頃から行われていることで、なにも急に言い出したおかしな発想ではありません。

 リスクコミュニケーションの話題では、「コアのリスク*4」「拡大されたリスク*5」との考えがありました。少なくとも「コアのリスク」についてであれば、茶葉抽出物中の放射性物質量を問題にするのは間違っていないよなあと、わたくしは思うのでした。

*1:栄養情報担当者。一般の人にはあまり知られていませんが、そのような秘密結社があるのです。

*2:健康・栄養食品アドバイザリースタッフ・テキストブック

*3:実際の農薬使用量って残留基準ぎりぎりになるようにはしていないでしょ。

*4:BSEの例で言えば、BSEによる健康被害のみを考慮したリスク

*5:BSEの例で言えば、BSEによる健康被害+それを懸念して牛肉が売れなくなる経済的損失もふくめたリスク