覚えるためには覚えない

 先日、久しぶりに会ったクラスメートは、1ヶ月後に管理栄養士の試験を控える身分であったのですが、どうにも勉強が進んでいないと嘆いておりました。「人体の機能と構造」*1とかわけわからない、糖のα1,4結合とかってあれ全部覚えるの? 覚えるとしたらどうやって覚えるの? と、試験が終わってのんきに暮らしているわたくしに問うのでした。

 その時はあまりつっこんだ内容を話すような場ではなかったですし、どの程度本気で聞いているのかもわからなかったので「学校でやったから読めばすぐに頭に入るでしょ」なんていやらしい答えをしたものですが、さてしかし、本気でこの問いに答えるとすれば、わたくしはどのように返すのだろうと、日にちの経った今となって気になりました。

「覚えなくていい」と返すのも、ありなんじゃないかと思います。なんといっても、管理栄養士の試験というのは、4割も間違えられるというかなりのゆるさを誇っています。わからない箇所の1つや2つ、問われれば完全にお手上げというところが1つや2つあったところで、まったく構わないのです。仮にその人が、糖の結合について覚えていなかったとしても、そのことを問う問題は出て1問。間違えられる80問のうちの1問に過ぎません。

 ですので、本当に覚えるのが辛ければ、「覚えなくていい」。捨てておけばいいです*2

 しかしこの答えは、試験に受かることだけを考えていて、打算的であまりいい答えではないと仰る向きもあるでしょう。わたくしもそう思います。では別の答えはないでしょうか。

「最初から覚えようとしなくていい」というのはどうでしょう。

 同じような内容は、異なる場面で形を変えて何度か出て来ます。たとえば、糖の結合であれば「人体の構造と機能」で糖の代謝として突然出てきますが、次の「食べ物と健康」という分野でも、糖の構造として出てきます。「基礎栄養学」でも、消化吸収、それからまた代謝と出てきます。

 参考書を順番にめくっていくと、「人体の構造と機能」のほうがそれらの分野よりも先にあるため、糖の結合と初めて対面する場は「人体の構造と機能」になるわけです。仮に、そこで「なんだ難しいわけわからねー」となったとしても、順番に読み進めていけば「あ、また会った」「あ、まただ」と何度か対面することになります。なにも初対面で顔形姿特徴、笑うと出てくるえくぼから二の腕にあるほくろまで、すべてを完璧に覚えようとしなくても、職場で何回も目にするうちに自然と頭に入ってくるわけのです。

 また、異なる分野で出てくれば出てくる様子も多少異なっていたりします。たとえば「人体の構造と機能」では、ラクトースは「グルコースガラクトースのβ1,4結合」とだけ、本当にただそれだけで出てくるのですが、「基礎栄養学」に行けばもう少し簡単に「消化されてグルコースガラクトースになる」と覚えやすく出てきます。「臨床栄養学」に行けば、ガラクトース血症との絡みで出てきたりもします。最初に出会った場が、それを覚えるのに一番簡単で最適な場であるとは限らないし、他の分野で色々なつながりを見てからのほうが、はるかに覚えやすかったりします。

 ですので、「人体の構造と機能」がわけわからなくて、「糖の結合とかなにこの呪文」と思いながら暗記をしているのだったら、さっさと先に進んだほうが楽に覚えられると思います。わからなくても先へ進む。そうすることで、ほかとの繋がりのもとで、より理解しやすい形が見えてくる。こういったことは、たぶん、ほかの多くの勉強分野でもあるんじゃないでしょうか。

 というわけで、「最初から覚えようとしなくていい」は結構いい答えだと思うのです。ただ残念なことに、試験まで1ヶ月切ってる人、まして「人体の構造と機能」でピタリと止まってる人*3に当てはまるアドバイスじゃなさそうなんですよねぇ。

*1:試験に出る分野の名前ね。

*2:もちろん、捨てた箇所が多数に及び、捨てた分野が広きに渡る場合には、当然の如く不合格になるでしょうが。

*3:9分野あるうちの、参考書の順番で言えば2分野目。まだ全体の20%も進んでないよ!