わたくしの愛するカミムラさんと、代替医療
先日久しぶりにあったカミムラさん（仮名）は、最近整体に通い始めたとか。といってもまだ何度も行ってはいないそうなのですが、わたくしと会うその日には、お値段の高いなんとかという整体屋さんに初めて行ってきたそうです。さすがにお値段が高いだけあって整体師さんは素晴らしい、あそこは信頼できそうだ、高いけど、でも通っちゃおうかなあ。なんてことをカミムラさんは口にしたのでした。
カミムラさんの語るところによれば、そこの整体師さんの何がすごいって、まあ人気があって予約が取りづらいというのもそうなのですが、その日カミムラさんがお店に入るなり、カミムラさんが疲れていること、その原因として睡眠に障害があることを見抜いたというのです。
カミムラさん自身には、睡眠に関するそのような自覚症状が無いので、疲れはともかく睡眠ついては特に問題なくよく眠れているのだけれどと言ったところ、整体師さんは「それはいけない」「神経の伝達がうまく行っていないから、睡眠に問題があることに気づかないのだ、余計に良くない」と続けたそうです。そしてなにやら整体師特有の動き、つまりは整体なるものをカミムラさんに施して、カミムラさんを快適にしたのちに、クーポン利用価格6千円だか7千円だかをせしめていったそうなのです。
これを持ってカミムラさんは、「見ただけで神経の伝達に問題があることを見抜くなんてすごい」「さすがは人気整体師だ」「信頼できそうだ」と言うのでした。
わたくしは驚きを持って、その言葉を聞きました。わたくしのなかでは、カミムラさんは頭の良い人であるのです。と言っても詳しく知っているのは子ども時分に限られてしまう上に、「頭のよさ」にしても、ちゃんと勉強の習慣が身についているとか、わたくしよりもちょっとというにはもう少しばかり成績がいいとか、その程度の他愛のない事に過ぎません。しかしそれでも、わたくしはカミムラさんにはかなわないとの思いを抱いていましたし、今でもまだ、抱き続けているのでした。
そんなわけなので、カミムラさんの発言は、わたくしには衝撃的ですらあったのです。カミムラさんでも、このようなやりとりで人を信じてしまうものなのかと。だってわたくしの聞いた、そして今わたくしが拙いながらも再現した整体師さんとのやりとりって、別に本当に見抜いていなくてもできるものじゃないですか。
わざわざ整体に来るくらいなのだから、その人は身体に不調があるに決まっている。疲れていたって不思議じゃないし、ましてやまったく睡眠に問題なく快調に朝を迎えている人が、いったい何人いるでしょう。特異的な例に当たるカミムラさんのような人が「イヤ全然、よく眠れてる」と答えたときには「それは余計に悪い」と続けて神経伝達のせいにしてしまえばいいのですから、これはもう無敵じゃないですか。
わたくしはおずおずと、ごく控えめにそのようなことを口にしました。するとカミムラさんは、「ああ、なるほど。どう答えても（整体師さんの）得なんだ」「そうかあ。そうすると、どうしようかなあ。通うつもりでいたんだけど、一晩寝てから決めようかなあ」と言いました。
それを聞いてわたくしは、ああ、やっぱりカミムラさんはすごいなあと感心しました。普通自分が思い込んでしまったものを否定されても聞く耳なんて持たないし、逆に頑なになったりすることが多いだろうに、カミムラさんはちゃんと考えを変えられる。
