腸内細菌の話

人間は料理をする・下: 空気と土

人間は料理をする・下: 空気と土

 以前から細々と読んでいる『人間は料理をする』の下巻には発酵を扱う章があって、そこにはこのように書かれているのでした。

近年、ブリティッシュコロンビア州のビクトリア大学のジャン=ヘンドリック・ヘヘマンが行った研究により、日本人の腸に一般的に見られる細菌、バクテロイデス・プレビウスは、海藻を消化する珍しい酵素を作り出すことがわかった。それは、ほかの地域の人の腸内細菌には見られない形質である。研究者たちは、この酵素をコードする遺伝子は、海中で海藻を食べている細菌――ゾベリア・ガラクタニボランス――由来であることを明らかにした。
(『人間は料理をする』下巻 p148)

 この前にある、空気――パン――を扱う章でも、

発酵種にまつわる謎のひとつは、そこに棲む微生物が(パンの発酵で重要なはたらきをする乳酸菌、ラクトバチルス・サンフランシセンシスも含め)ほかのどこにも見つからず、どこから来たのかわからないことだ。
(同 p16)

と、菌が極めてニッチな環境に適応していることを書いているのですが、そうですが、日本人の腸内にはよく見られるけど、その他の地域の人の腸内には見られない細菌もいるのですか*1

 で、これを読んで思い出したのが、ニューギニアのパプア族の話。

ニューギニア高地に住むパプア族は、ふだん食事の96.4%はサツマイモを食べており肉類はほとんど食べてない。従って、いつもタンパク質欠乏の状態であると予測されるにも拘わらず健康状態は良好で筋骨隆々としているといわれる。
 日本人による最近の栄養調査によると、彼らは毎日平均して約2gの窒素相当のタンパク質(10〜15g)を摂取しているに過ぎないが、糞と尿から排泄される窒素量はこの2倍になっている。このことから、腸内細菌によるタンパク質合成が行われていると推定され、KlebsiellaEnterobacterが窒素固定菌として分離された。
(『食物心理学――価値観と欲求の科学』p249)

 パプアニューギニア高地人は一日4.5gのたんぱく質しか摂取しないのに日本人と体格が変わらないという。この人々の腸内細菌には、日本人などの通常の人においては排泄してしまう窒素化合物をアミノ酸に資化する菌、ユウバクテリウム(バクテロイデス)が多く、低たんぱく質で体内たんぱくが欠乏しないようになっている。
(同 p291)

 摂取たんぱく量に違いはあるのですが、おそらく同じことを言っているのでしょう。これを読んだときにはそんな都合のいい話があるかいと思って、249ページの続きの文章にある、

 これら腸内細菌が空中窒素を固定してタンパク質を合成している可能性が強くなったが、一方で彼らは昆虫類を隠れて摂取しているという観察もあり、摂取窒素量の見逃しも疑われているので、今後確固とした証明がなされるべきである。

こちらの可能性が高いのではないか、みんながみんな昆虫を食べるんだけど、でも食べる時は誰にも見られないように食べる、っていう絵は面白いなあと思ったものでした。

 でも、特定の地域の人のみに棲んでいる腸内細菌がいて、かつそれが、他の地域の人の腸内細菌には見られない形質も持っているとなると、ニューギニアのこの話もあり得るのかと、このように思ったのでした。確認は全然してないけど。

*1:「ほかの地域の人の腸内細菌には見られない形質」ってことは、日本人以外の人は、海藻を消化しないのでしょうか?