料理の効用
- 作者: マイケル・ポーラン,野中香方子
- 出版社/メーカー: エヌティティ出版
- 発売日: 2014/03/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (6件) を見る
(リチャード・ランガムは『火の賜物』*1のなかで)料理の発明こそが人類の方向を変えたと説く。料理によって栄養価が高まり消化しやすくなったものを食べるようになると、人類の脳は大きくなり、胃腸は小さくなった。生の食物は、咀嚼と消化により多くの時間とエネルギーを要するので、霊長類は、体のサイズは人類と同じでも、消化管が長く、咀嚼に多くに時間――日に六時間も――を費やす。
(『人間は料理をする』p7)
たとえば酵素栄養学では、野菜の生食を勧めたりします。酵素はもちろんたんぱく質なので*2、熱によって変性してしまう、それではせっかくの食物酵素が台無しだ! というわけで、生の野菜をたくさん食べなさいと勧めたりします。
そういった言説を、この文章によって一刀両断できないものかと思ったわけです。料理によって、食物に含まれる栄養の消化吸収率は高まる。それによって、脳はその大食らいのエネルギー必要量を満たすことは出来るのだし、またそれによって、多くの時間を食事に費やすなんてことはしなくてすむ。
つまるところ料理とは、外部のエネルギーを用いて、体に代わって咀嚼と消化を行うことだ。
(同上)
このような文化的環境によって人間の体ははじめて成り立つのだから、
大きな内臓の代わりに大きな脳を得た今、生食主義者がいくら望んでも、もう後戻りはできない。ランガムは、人間は生食だけでは健康を維持できないことを示すいくつかの研究を引用している。生食だけでは体重は維持できず、女性の半数は月経が止まる。生食の信奉者がジューサーやミキサーを多用するのは、そうしなければチンパンジーと同じように咀嚼に時間をかけなければならないからだ。
(p69)
というわけです。
しかし逆に、料理によって栄養の消化吸収率が高まるという事実こそが、マイケル・ポーランいうところの生食主義者に力となってしまうのかもしれないと、そのように思うのです。
つまり、現代社会は、先進国では特に、飢餓よりも栄養過剰が問題であるのです。ジューサーやミキサーを用いることで咀嚼の問題がある程度片づくのであれば、栄養の消化吸収率は高くなくても問題はない。だって、そもそも過剰にものを食べるのだから。
ニシキヘビの餌を、生の牛肉から焼いたハンバーグに変えると、「消化にかかるコスト」は二五パーセント近く減少し、ほかのことに使えるエネルギーがヘビには残された。また、マウスでは、加熱した肉を食べたもののほうが、同量の生肉を食べたものより成長が早かった。
(p71)
料理したものなんか食べていたら、過剰栄養に苦しむことになる。それなら、生の食物*3を食べていたほうが健康にいいのだ。という論法が成り立ってしまう気がするのです。消化にかかるコストをなるべく大きくして、エネルギーをそこで消費してしまいましょう。といって怪しげなスムージーを販売することだってできそうです。
調理された卵は九〇パーセントは消化されるが、生卵は六五パーセントしか消化されない。同様に、牛ステーキやパスタも、熱の通し方が少ないほど、消化されにくい。ダイエットしている人は注意されたし。
第1章の注5にはこのように記されているのですが、さて、なにに注意するのでしょう。料理することに、と言えてしまうのではないでしょうか。
まあこのように、人間は料理によって進化を成し遂げ料理に適応していったのだから、生食主義なんてナンセンス! と主張しようとの試みは、華麗に破れさったのでした。
まだ第一章までしか読み終わってないけど
上で取り上げたのは、「料理によって人は進化した」っていうリチャード・ランガムの説に関係するところがほとんどで、だったら『火の賜物』でも読めよ! って感じなのですが、しかし、焼く、煮る、などの料理の主要要素と言える技術を体現する料理や、その歴史、文化、人々に関する記述は大変おもしろく、また大変食欲をそそるよい本なのです。
人生も半ばを過ぎた頃、予想外の幸せな発見をした。ずっと心をふさいでいたいくつもの難問が、たったひとつの答えで解決するとわかったのだ。
その答えとは、料理である。
(p1)
若干言い過ぎですし、僕はこのような著者の立場を100%支持するわけではありませんが、得るものは多そうだと思っています。
注5に関連して
卵はアミノ酸スコア素晴らしいはずだし、教科書に載ってる消化吸収率って、三大栄養素に限ればたいてい問題にならないほど高い。
たとえば、白米の人間における消化率を見ると*4、
たんぱく質(%) | 脂質(%) | 糖質(%) | |
見かけの消化率 | 78.57 | 78.63 | 99.66 |
真の消化率 | 97.58 | 99.45 | - |
だし、消化吸収のよさそうな肉や豆についてなら、
たんぱく質(%) | 脂質(%) | 糖質(%) | |
肉・魚・貝類 | 90以上 | 70-80 | 90以上 |
豆類 | 70-80 | 60-75 | - |
なので*5、卵の消化吸収・利用効率はきっと素晴らしいに違いないと思っていたけど、生だとそうでもないのですね。考えてみれば、消化吸収率を調べるのに、生肉とか生の大豆とか食べさせる実験をすることはなさそうですしね。
消化吸収いいしー、たんぱく利用効率いいしー、なんて言って筋トレ後に卵かけご飯を食べるのであれば、目玉焼きご飯にしたほうがよさそうです。