ついでに、母乳と乳児の腸内細菌の話

 ついでなので、『食物心理学――価値観と欲求の科学』の腸内細菌にまつわるところを読んで、気になったところを。

母乳栄養児の場合、ビタミンK2を合成できないビフィズス菌が全体の99.2%も占めているが、人工栄養児の場合、19.1%に過ぎず、ビタミンK2産生菌であるBacteroidaceaeが27.6%、E.coliが24.4%と多くなっていることがわかる。
(p246-7)

 だから、母乳栄養児でビタミンK不足の頭蓋内出血が見られる、という話。母乳栄養児でビタミンK欠乏のリスクがあるというのは別に教科書に載っている話なのでなんてことないのですが、『人間は料理する』の次の記述からイメージされるものとは、若干の相違があります。

母乳そのものにも細菌が含まれていて、それらは乳児の腸内に細菌のコロニーを育てる役目を果たしている。しかし、母乳の果たす最も重要な役目は、腸内細菌叢を「良い」細菌が支配するよう導くことだろう。長い間、栄養学者たちは母乳に含まれるオリゴ糖という複雑な炭水化物の存在に当惑させられてきた。これを分解するための酵素を、乳児は持っていないのだ。進化的に見れば、母乳に含まれるものはすべて、乳児の発育に役立つはずであり、そうでなければ、母親の貴重な資源の無駄遣いとして自然淘汰によって修正されているはずだ。
(『人間は料理をする』下巻 p153)

研究の結果、オリゴ糖は、乳児ではなく、乳児の腸管に棲む細菌のためだということがわかった。有益な細菌、特にビフィドバクテリウム・インファンティスが、無益な細菌に先駆けて増殖し、腸内に定着するのをオリゴ糖は助けていたのだ。
(同上)

 なんか、世界は最善だみたいな話ですけど、そうは言っても、このオリゴ糖によって引き起こされることが、ビフィズス菌92.2%の腸内細菌叢で、その帰結が、ビタミンK2不足なのでしょう?

 歴史的に、ビタミンK欠乏のリスクは低かったのか、またはビタミンK欠乏になるかもしれないとしても、ビフィズス菌が優位になることのベネフィットのほうが大きかったのか。乳児死亡率が低くなったのなんて最近のことでしょうから、高かった乳児死亡率のなかでビタミンK欠乏によるものなんて、とるにたらなかったのかもしれません。

乳児ビタミンK2欠乏性出血症の発症は母乳栄養児に多い特徴があり、全体の85.6%を占めている。混合栄養児と人工栄養児における発症は、それぞれ5.4%と5.1%である。
(『食物心理学』p246)

 とあるから、まあ混合栄養にすればよろしいのでしょうし、ましてビタミンK2製剤があるのだから、現代においてそれほど心配することはないのでしょうけど。