朝バナナの疑問

よく果物をたくさん食べるというと、果糖で太ることを気にする方がいますが、果糖は代謝があがり、脂肪燃焼の促進に効果的です。

朝バナナダイエットのやり方

 「果糖制限食は減量を促進するかもしれない」や「解糖系のお勉強」で見たように、フルクトース(果糖)はグルコースなら通るはずの律速段階をひとつ飛ばして解糖系に入ってくるので、その分余剰のエネルギーを供給しやすい。したがって、脂肪燃焼に促進的ではなくて、脂肪合成に促進的だ。「果糖制限食は〜」はそういった実験結果だし、ほかにも

前日に400gのフルクトースを摂取した患者の肝を手術時にバイオプシーを行って調べてみると、中性脂肪の炭素原子にはグルコース由来の炭素原子の3倍ものフルクトース由来の炭素原子が含まれているという。
(『食卓の生化学』p4)

というような結果がある。まあ400gのフルクトースってものすごい量だと思うのでバナナ一、二本とこれを比べるのはおかしいけれども、果糖だから太らないっていうことはない。むしろ脂肪はつきやすいんだ。効果のほどはともかく、低FI(フルクトース・インデックス)ダイエットなんてのもあるらしい。

例えば、エネルゲンというスポーツドリンクがあります。(中略)マラソンやジョギングをやっている方には、水分補給ドリンクとして大変人気があります。エネルゲンの糖分は果糖であり、体内のグリコーゲンが切れてしまった時、エネルゲンの果糖が、脂肪燃焼を促進し、エネルギー不足を防いでくれるからです。

朝バナナダイエットのやり方

 ランナーに人気があるとして、おそらくその理由は

運動競技の50分ほど前にグルコースあるいはスクロース(砂糖)を飲ませ、血糖量やインスリンを高めて糖質の酸化を促進する方法があるが、フルクトースを飲ませるとグルコースを飲ませるより血糖の上がり方も緩やかで、筋肉グリコーゲンの急激な低下を防ぐ効果があるというのである。
(『食卓の生化学』p5)

これじゃないだろうか。フルクトースがエネルギーとして長くとどまるので(血糖の上がり方が緩やか)、結果としてほかのエネルギー源(中性脂肪かもしれないし、筋グリコーゲンかもしれない)を残しておける=エネルギーが持続するってところが、その人気の秘密なんじゃないか。*1

 で、なぜフルクトースがグルコースよりも血糖の上がり方が緩やかかといえば、消化管での吸収のされ方が両者で異なるからなんだろう。

 グルコースガラクトースはナトリウム依存的に吸収される。2種の糖は同じ輸送タンパク質(SGLT1)によって運ばれ、吸収に関して互いに競合する。(中略)フルクトースや糖アルコールの吸収には活性輸送系は存在せず、濃度勾配によって吸収される。
(『イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書27版』p512)

 要するにグルコースは積極的に吸収されるけど、フルクトースは濃度の違いでじんわり吸収されるだけだから、血糖の上がり方がゆるやかになるわけだ。その結果、血糖の上昇を表すグリセミックインデックスグルコースは1で*2あるのに対し、フルクトースは1以下*3になる。

 朝バナナダイエットでやせるとすれば、果糖が脂肪を燃焼させる肥満にならない素晴らしい代物だからではなく、単食が退屈で食べなくなるからとか、夜の食べる時間に気をつけようとかの生活改善の結果なんじゃないか。*4

*1:もしマラソン選手にエネルゲンが人気だというのが正しいとすれば、だけど。

*2:「ある糖質のテスト量を摂取した後の血糖値の増加を等量のグルコース摂取量のそれと比べたものがグリセミックインデックス」だから、グルコースが1なのは当たり前。

*3:このページを参考にすれば、フルクトースのGI値は20〜29だそうだ。

*4:フルクトースについては「果糖の代謝」や、弘前大学の卒論集から「みかん、ぶどうが健常者の血糖値に及ぼす影響」とか「果物が血中脂肪酸に及ぼす影響」なども勉強になりそうなので忘れないように記しておく。