有機が最良とはいえない。の続きで調べ物でもしましょうか。

 どうやら有機が最良とは言えないらしいのだけれど、有機肥料の作物含有成分への影響についてもう少し詳しく調べていたら、有機肥料と化学肥料による野菜成分の違いを調べた研究を見つけた。本当はいろんな人のを読むのがいいんだろうけど、調べやすさで同じ人のものを何個か読んでみた。

ブロッコリーの実験

 ブロッコリーの実験*1では、

  • 慣行区
  • 有機I(魚かす、なたね油かすを主)
  • 有機II(大豆油かすを主)
  • 化成肥料区

で、N、P、K量はどの区も同じ量にしたうえで栽培し、成分比較を行っている。それによると、

であったという。

 ブロッコリーでは、有機の勝ちみたいだ。

小松菜の実験

 次に、小松菜の実験*3は、有機と化学肥料の比較を、それまで化学肥料を一切使わずに12年間堆肥を使用し続けてきた「堆肥連用土壌」と、そこに隣接した「未耕地土壌」の二箇所で栽培して行われた。またこの実験では、有機のものも化学肥料のものも、同じ期間同じ重さのものという条件で比較している。これは、

ホウレンソウおよびコマツナにおいて窒素施用量の増加に伴い生重および硝酸態窒素は増加、また、コマツナ水耕栽培でも、低い培養濃度で生重は小さく、アスコルビン酸および糖含量が高いということが報告されている。

らしいのだけど、先行研究で有機のほうが作物の含有成分的に優位だったという結果の出た研究では、有機のほうが生育量が低い傾向が見られたという。つまりは、有機のほうがビタミンC多いとか糖分多いとか言ってるけど、それはただ単に生育が悪かったからであって、有機自体の効果とはいえないんじゃないの? という部分を調べるためのものだ。

 結果は、収穫後の比較では有意差の出たもので

  • 硝酸態窒素:堆肥連用土壌>未耕地土壌
  • 未耕地土壌での硝酸態窒素:有機>化成
  • 堆肥連用土壌での硝酸態窒素:化成>有機
  • 可溶性全糖量:未耕地土壌>堆肥連用土壌

で、総アスコルビン酸、βカロテンでは有意差がなかったという。リンク先の図2はぜひ見てもらいたいけど、総アスコルビン酸とβカロテンはどの試料でもほとんど横一線で、有機と化学肥料で有意差の出た硝酸態窒素については、堆肥連用土壌と未耕地土壌の違いに比べれば微々たるものに見える。

 ちなみに、有機肥料、化学肥料のほかに「無肥料」という栽培もしているんだけど、未耕地土壌+無肥料はほかのものに比べて総アスコルビン酸、βカロテン、可溶性全糖量がもっとも多かったそうだ。

 収穫後、水分補給のできる環境で6日間保存したのちの成分比較では、有意差のあったもので

  • 硝酸態窒素:堆肥連用土壌>未耕地土壌
  • アスコルビン酸と可溶性全糖量:未耕地土壌>堆肥連用土壌

となって、βカロテンは有意差なし、収穫後すぐには見られた有機と化学肥料による硝酸態窒素の差は見られなくなったという。

 小松菜では、有機だ化学肥料だ言ってるけどそんなのどっちでもよくて、ずっと農地だったかそうでないかが重要で、その比較では未耕地の圧勝だ。ついでにいえば、有機でも化学肥料でもなく、無肥料の勝ちだ。

 少しずれるので詳しくは触れないけど、総アスコルビン酸と可溶性全糖量は硝酸態窒素との間でもっとも高い負の相関が見られ、という考察は面白いので読んでみてください。

人参の実験

 人参の実験*4では、何種類かの品種を使って有機と化学肥料での成分比較を行っている。またこの実験でも、小松菜の実験と同じように、生育量が同一になるような工夫を行って、生育量の違いから生まれる成分変化を極力排除して行われている。

 品種によって違いもあるのだけど、有意差が出た部分ではおおむね

  • 肉部硬度:化学肥料>有機
  • 心部硬度:化学肥料>有機
  • 可溶性全糖量、αカロテン、βカロテン、総カロテン:化学肥料>有機
  • Na、P、Ca、Mg:有機>化学肥料
  • Cu:化学肥料>有機
  • 官能評価*5は、色、香り、硬さ、総合:化学肥料>有機

であったという。

 人参では化学肥料の勝ちみたいだ。

トマトの実験

 「野菜の成分変動とその要因*6は今までの研究のまとめのような位置づけにあたる論文だと思うけど、これで触れられているトマトの実験では、

  • 水分:化学肥料>有機
  • ビタミンC:有機>化学肥料
  • 水分を除いた乾燥重量換算比較の、ビタミンC含量:有機>化学肥料(って書いてあるけど、図を見ると変わらないように見える)
  • 還元糖:有機>化学肥料
  • 総酸量:有機>化学肥料(これもほとんど変わらないように見える)

だったという。

 トマトでは有機の勝ち、でもこれそんなに差があるの? だろう。

organic is best?

 以上見てきた結果によれば、確かに「有機が最良だとは言えない」だろうと思う。有機のほうがよさそうな結果の出ているのはブロッコリーとトマト、逆に化学肥料のほうがよさそうな結果の出ているのは人参、どっちでもいいんじゃないの、な結果の小松菜と、作物によっても違いがある。ひょっとしたら、作物一般にいいなんてそんな栽培法はないのかもしれない。

 ただ逆にこれらの結果から、店頭に並んでいる有機野菜がその他の野菜に比べて有用成分が多いというのは、案外あるのかもしれないなと思うようになった。小松菜や人参の実験では、生育量や重量が同じになるように工夫して、比較していた。それはそれで、有機肥料や化学肥料自体の効果を比較する上では大変重要なことだろうと思うけど、でも一方で、店頭に並んでいる野菜について考えるときには、あまりふさわしくないと思う。

 小松菜のところで触れられていたけど、養分が多くて生育量が多いと、ビタミンCや糖分が減る野菜もある*7。たぶん、普通に化学肥料を使って育てていれば、普通に有機肥料を使って育てているよりも養分が豊富な土となって、生育量は上がるだろう。そのための化学肥料だろうとも思う。でも、生育量が上がっているから、上の理論で行けば、含有成分は少なくなるんじゃないだろうか。

 だから、「栄養あるから」と店頭で有機野菜を選択する人がいたら、そうかもしれないねと弱くは同意する。ただそれは、有機がいいからだとか化学肥料が悪いからだとかじゃなくて、単に生育量がそういう差を生むだけの話だ。同意したあとで、「未耕地無肥料だともっと栄養あるらしいからそれを選んだら? ものすごく小さくてぜんぜん採れないけど」と心の中でいやらしくつぶやくかもしれない。

堆肥や有機肥料の使用そのものが必ずしもコマツナの品質成分を向上させるわけではなく、場合によっては返って低下させる可能性もあることを示している。
(『堆肥および有機質肥料の施用がコマツナ(Brassica campestris L.rapifera group)の硝酸,糖,アスコルビン酸およびβ-カロチン含量に及ぼす影響』)

 本実験で得られた結果は、有機質肥料の施用が必ずしもニンジンの品質向上に結びつくわけではないことを示している。
(『有機質肥料および化成肥料で栽培したニンジン(Daucus carota L.)における生育量差の影響を除去した品質比較』)

 生育量が低いからこそ豊富な栄養なんだと思うから、Dr.Alan Baylisの言葉どおり、それは「余裕のある人たちの選択」で、もっと言えば「余裕のある社会の選択肢」なんじゃないか。

*1:『施肥条件の異なるブロッコリーの成分および食味(12.農産物の品質・成分)』吉田企世子、小宮直子、林和男 日本土壌肥料学会講演要旨集 No.45(19990725) p. 146

*2:ビタミンCね。

*3:『堆肥および有機質肥料の施用がコマツナ(Brassica campestris L.rapifera group)の硝酸,糖,アスコルビン酸およびβ-カロチン含量に及ぼす影響』中川祥治、山本秀治、五十嵐勇紀、田村夕利子、吉田企世子 日本土壌肥料學雜誌 Vol.71, No.5(20001005) pp. 625-634

*4:有機質肥料および化成肥料で栽培したニンジン(Daucus carota L.)における生育量差の影響を除去した品質比較』中川祥治、田村夕利子、山本秀治、吉田企世子、善本知孝 日本土壌肥料學雜誌 Vol.74, No.1(20030205) pp. 45-53

*5:人間の五感による評価

*6:『野菜の成分変動とその要因』吉田企世子 女子栄養大学紀要 Vol.35(20041201) pp. 15-21

*7:「も」としたのは、そこで触れられたもの以外わからないので、そうじゃない野菜もあるのかもしれないから。必ずしもそうじゃない野菜があるというわけじゃない。