『日本型食生活の歴史』への、部分的にしか読んでないから部分的な批判――戦前と昭和54年の比較について

 こちらにまとめた『日本型食生活の歴史』をもとにしながら、その内容を考えてみたいと思います。

「戦前(昭和9〜13年平均)と昭和54年の比較」について

 まず第一にまとめた「戦前(昭和9〜13年平均)と昭和54年の比較」についてなのですが、比較して変化があるのはそうでしょう。それを欧米化と表現することはちょっとためらいがある*1ものの、食生活が変化して動物性食品が多くなっているのは疑いようもない事実です。

 しかしながら、いささか恣意的な部分も見え隠れします。著者は食生活の変化で肉、鶏卵、牛乳・乳製品の劇的な伸びを示した上で、「和食につながる魚介類は三.六倍増にすぎない」と言っています。「三.六倍増にすぎない」です。でも魚介類は、著者によれば和食に繋がるそうなので、もともと摂取量が多かったことが疑われます。もともと摂取量が多かったものがさらに3.6倍増なのと、和食に繋がらないから定義としてもともと少なかったであろう肉、鶏卵、乳製品等と同じく、増減比率としてあらわした上に「にすぎない」とするのは、あまり適切ではないだろうと思うのです。

 なので、絶対量の変化を見てみましょう。

 昭和54年と戦前(昭和9〜13年の平均)との比較で、残念ながら後者はどこから見つければいいのかわからなかったので、昭和54年の数値から計算してみました。昭和54年については、国民栄養調査による数値です(単位はグラム)。

品目 戦前 昭和54年 増加量
魚介類 24.7 88.8 64.1
7.2 71.7 64.5
6.4 41.1 34.7
乳・乳製品 5.9 112.9 107.0

 これを見ると、確かに肉を食べる量は増えたけど、魚を食べる量もほぼ同じだけ増えているんだということがわかります。でもより感じるのは、「和食につながる」はずの魚が、戦前では意外なほど食べられていないんだということです。一人一日平均で、24.7gですよ。魚一切れでまあ60g程度として、二日に一回も食べられていないという計算です。

 主たる動物性たんぱく質の魚でそうなのだから、戦前の食卓で動物性たんぱく質のおかずがある、っていうのが、いかに少なかったかがわかります。「伝統的な日本食」は、かくも貧しいもののようです。欧米化してよかった。

 そんな状態で栄養量満たしてたの? と疑問に思ったので、こちらも調べてみました。たんぱく質は戦前から昭和54年までに35%増加しているそうなので、先ほどの比較と同じ要領で計算してみると、

  戦前 昭和54年
たんぱく摂取量 58.08 78.41

ということになります(単位はグラム)。年代関係なく「平均」ですのであまり参考にならない数値かもしれませんが、食事摂取基準によれば、男性は18歳以上で推奨量*260g、女性は15歳以上で推奨量50g、推定平均必要量は、男性12歳以上で50g、女性15歳以上で40gとなっています。

 あら、意外にも足りている可能性が高いみたいです。まして食事摂取基準は、基準となる体格を定めてその体格に必要な量を言っているわけで、現代人よりも小柄な人が多いであろう戦前では、ぎりぎり充足していた可能性が高いです*3

 とまあ、書いてみたら、ここの時点であんまり「批判」はなかったみたいでした。

*1:なぜなら、欧米諸国が「欧米化」したのだって、割と最近のことだったりするわけです。それは本文中にも書かれていて、日本のこうした食品構成の変化を示したあとで、「こうした傾向は、なにも日本だけに限ったものではなく、世界の先進国・中進国に見られる共通のもの」(p222)であるわけです。日本の平均伸び率はもっとも高く、まだまだ「欧米化」の進む可能性のある国である、つまりは先進国的食習慣へもっと近づく可能性があるという部分が、他の欧米先進諸国との差です。

*2:その量とっていれば、9597.5%の人は充足しているだろう、という量。

*3:もっとも、「ぎりぎり充足していた可能性が高い」くらいの摂取量だったから、小柄だったんでしょうけど。