食生活

高橋久仁子先生の講義を聞いた

先日、群馬大学の高橋久仁子先生の講演を聞く機会がありました。実のところ高橋先生の話を聞くのはこれが2回目で、1回目である、今から1年ほど前の放送大学面接授業については、講義の1週間後くらいに内容をノートにまとめていたのでした。 ところが、いつか…

『和食;日本人の伝統的な食文化』から、気になったところを適当に。その1

すでに先日の日記でも引用しましたが、最近農水省の日本食文化テキストブック『和食;日本人の伝統的な食文化』なるものをちまちまと読んでおります。 事の次第 昨年末ごろに、和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたというニュースがありまして、ちょっと…

マクガバン報告って!(農水省の日本食文化テキストによると!)

以前書いたように、マクガバン報告については少々の権威が来たところでゆるがないのですが、農水省さまの日本食文化テキストなるものを読んでいたところ、 その結果、アメリカ人の食生活に警鐘を鳴らしたのが1977年のアメリカ上院に提出された「マクガバン報…

カルシウムとリンについて

以前「乳糖不耐症があるからって、牛乳否定しないでね!」というのを書いたのですが、そちらの記事におおむね以下のようなコメントをいただきました。 おおざっぱな数字として、牛乳100gあたりに含まれるカルシウムは120mg、リンが100mgである。 吸収率はと…

そういえば過去にもやった、たんぱく質の摂取について

とあるblogのコメント欄で、「日本人男性のたんぱく質必要量は60g、牛丼で言えば3杯なのだから、気をつけなければ不足する。プロテインでも如何か」なる旨のコメントを見かけて、疑問点が3つ沸き起こったのでした。 たんぱく質60g必要とはいかなる出典か 牛…

脚気が想像以上に怖かった

栄養士を養成する学校でも、また管理栄養士の参考書でも、栄養学史に軽く触れることがあるのですが、そこでは3人の日本人が登場します。栄養研究所を作った佐伯矩、食事によって脚気を予防した高木兼寛、脚気を予防する成分オリザニン(=ビタミンB1)を発見…

塩分過多の近代性

人類が最初に手にした調味料は塩です。調味料というより生命維持に不可欠なミネラルです。(略)乾燥した貝類もタンパク源だけでなく塩の摂取手段として貴重です。東京北区中里貝塚でカキの養殖を行っていた縄文人は、乾燥したカキを塩の摂取源として交易に…

誤解していた地産地消

どうやら、地産地消というのは、今までその土地で食べてきたような伝統食の栄養学的な欠点の改善を、それまであまり栽培されてこなかった農産物をとり入れることで、地元の生産物だけでも十分な栄養バランスが確保できることを目標にした取り組みであったよ…

食料事情と食事回数について

小学生か中学生くらいの古い記憶によれば、1日3回食事をする習慣は、室町時代くらいに成立したと習ったように思います。このことをあまりしっかりと確かめたことはないのですが、 奈良時代の貴族社会になって、食事は朝夕の1日2度とし、その他、間食を摂ると…

『食事の文明論』の読書メモ3――私事としての食事と食卓革命

さらに引き続いて『食事の文明論』*1です。第7章の「食卓での分配法」で、著者は日本の食卓の変遷を辿ります。 平安時代末期の書物に、食事をする庶民の絵が描かれているとあります。その絵では、各人の前にお盆が置かれ、お盆の上にご飯のお椀と汁椀、それ…

『食事の文明論』の読書メモ1

食事の文明論 (中公新書 (640))作者: 石毛直道出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 1982/01メディア: 新書購入: 2人 クリック: 9回この商品を含むブログ (2件) を見る まだ読み途中なのですが、序章で著者が書いているように、学術的な記述というよりはエ…

食品の文化的扱いについて

場所が変われば意見も変わる。食べ物についての意見も例外ではないようです。タイでは北部・東北部とそれ以外の地域では主に食べる米の種類が異なっていて、前者はもち米、後者はうるち米を主に食べる地域であるそうです。そして両者ともに、自分たちの主食…

食後血糖値を抑えると腹持ちするのかどうかについて――理想血糖推移曲線を求めて

わたくしは一応栄養学を学ぶものですので、世にあふれる健康・栄養情報については、快刀乱麻即座にバシッと判断できなければなりません。したがいまして、昨今の人気記事「「ためしてガッテン」がダイエット食品会社を潰しにかかってる件」につきましても、…

主食あれこれ

以前見た『肉食の思想』*1によれば、ヨーロッパの食事には主食・副食の区別がないとのことでした。牧畜適地で動物との距離が近かったこと、家畜を食らう習慣を持ちながら、それでも集団の協力が必要なパン食を捨てなかったことが、ヨーロッパ思想の土壌を作…

食料自給率を上げろ上げろと言うけれど

先ごろ一〇〇%輸入に頼っているシンガポールの高官に食料安全保障という考え方について聞きましたら「イラクのようなことをしない限り、食料がカットされることはないと思う」という答えでした。 (『食の文化フォーラム―国際化時代の食』p66) 話者はこの…

昼寝はいいことばかりじゃない。かもしれない

昼寝はいい、という話を聞きます。永きにわたる幼き日のそのいずれかの記憶によれば、「20分の昼寝は夜の睡眠1時間に勝る」と母親かだか父親だかが言っていましたし、最近では昼寝をすると記憶力が上がるなんて話もあります。午後の眠気に襲われずに作業効率…

米飯食では太っている人のほうが普通の人より血糖上昇が少ないかもしれない

コメント欄で教えていただいた『食事が血糖値に及ぼす影響—米飯食とパン食の差—』*1が、米飯食とパン食の差以外の部分が面白かったのでご紹介致します。 この実験は、一般的に血糖のコントロールには小麦粉よりも米飯がいいと言われているけれども、実際のと…

ヨーロッパの昔の食——ヨーロッパにも肉の食えない時分がありました

ヨーロッパの舌はどう変わったか―十九世紀食卓革命 (講談社選書メチエ)作者: 南直人出版社/メーカー: 講談社発売日: 1998/02メディア: 単行本購入: 4人 クリック: 37回この商品を含むブログ (9件) を見る 今日の日本の食について欧米化していると言われます…

日本人の米食べ具合 その昔

『「コメ志向」再考』*1のなかで、ジョアン・ロドリーゲスの『日本教会史』なるものから面白い文章が引用されています。 また、シナ、コーリアおよび日本は酒の使用量があまりに多いので、日本では国土の産出する米の三分の一以上が造酒に用いられると断言で…

「コメ志向」再考——または、ニッポンだって肉を食う!

食文化から社会がわかる! (青弓社ライブラリー)作者: 原田信男,竹内由紀子,中村麻理,矢野敬一,江原絢子出版社/メーカー: 青弓社発売日: 2009/10/01メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 31回この商品を含むブログ (7件) を見る さて、先日は第4章「シンボル…

一物全体思想家からもらった国産牛(特定危険部位除去なし!)でも

世の中のおそらく狭い範囲で幅を利かせている思想に一物全体というのがあって、それによれば食材は丸ごとすべて食べるのが健康によろしいとか。食材と食材じゃないものを先に分類しておいて、食材に分類したものはすべて食えというのも随分乱暴な物言いだと…

菜食とビタミンB12についてのお勉強

以前「肉がだめなら無農薬野菜を洗わずに食べればいいじゃない」などと言ったわけですが、そちらのコメント欄で「マクロビ論文5 海藻とビタミンB12」を紹介されたので、そちらを参考にしながら菜食とビタミンB12について調べてみました。 まず「海藻とビタミ…

「ご飯はなんにでもあう」というけれど

飯(白ご飯)は、日本料理はもとよりあらゆる料理(中華料理、フランス料理、イタリア料理、インド料理など)とも嗜好的相性がよい。これは、炭水化物源としての穀類のなかで、小麦やトウモロコシにはみられない。このことは他種類の食材を摂取するためのパ…

ふたたびの、コレステロールと死亡率

以前読もうと挙げていた「低コレステロールは死亡率を高めるか」は、やっぱりタイトルから予想されるように、「低コレステロールは死亡率を高めない」との主張だったのでした。内容のほうも食事摂取基準さまが仰る通り*1、低コレステロールは原因ではなく結…

乳糖のカルシウム吸収について

ゆえあって「食品とカルシウム吸収について」を読んだのですが、面白かったのは乳糖に関するこんな話でしょうか。 このカルシウム吸収促進作用については、pH低下説、可溶性複合体説のほか、最近では乳糖が吸収部位である小腸の絨毛細胞のカルシウム透過性…

低LDLコレステロールと死亡率を調べてみた

コメント欄で指摘されたので、低コレステロールと死亡率の関係でも調べてみようかと思い立ちました。これとかこれとか、日本臨床の増刊号でもあたれればもっと詳しくわかりそうなものだけど、とりあえず手近なところで「日本人では低LDLコレステロールで死亡…

不足している栄養素——ビタミン編

先日はミネラルの不足を見ましたが、今回はビタミンの不足を見てみましょう。 ビタミンA まずはビタミンAです。上は男性、下は女性の表で、単位はμgREです。 年齢 平均値 中央値 推定平均必要量 推奨量 18-29歳 602 412 550 750 30-49歳 570 393 550 750 50-…

普通の食生活をしていれば、不足する栄養素はないってほんと?

福岡伸一は 飽食の時代に生きる現代人は、常時カロリーオーバーの危険性にさらされることはあっても栄養素が欠乏することはほとんどありえない。 (略) これは毎年、厚生労働省が行う栄養調査でも明らかになっていることで、少なくとも普通の食生活をしてい…

日本人は栄養不良?

『ここがおかしい 日本人の栄養の常識 -データでわかる本当に正しい栄養の科学- (知りたい!サイエンス)』という本では、平成15年の国民健康・栄養調査からエネルギー摂取量等の年次推移にもとづいて、日本人の摂取エネルギー量は年々減少していて、日本人は…

たんぱく質は飽食日本でも重要な課題なの? ——または、栄養評価における推奨量とかの使い方

わたくしが好きで、また勉強にもなるのでよく見ているblogのひとつが、ここ数日たんぱく質摂取の重要性を強調しております。もちろんわたくしもたんぱく質の重要性はそれなりに認識しているつもりなのですが、肉や魚や卵といった動物性たんぱくを豊富に摂取…