たんぱく質は飽食日本でも重要な課題なの? ——または、栄養評価における推奨量とかの使い方
わたくしが好きで、また勉強にもなるのでよく見ているblogのひとつが、ここ数日たんぱく質摂取の重要性を強調しております。もちろんわたくしもたんぱく質の重要性はそれなりに認識しているつもりなのですが、肉や魚や卵といった動物性たんぱくを豊富に摂取できる現代日本においては、たんぱく質は口を酸っぱくしていうほどの問題でもないように思うのです。
現在の日本人の1日当たりのたんぱく質摂取量は、青年・壮年期の男性では約80g、女性では約70gである。一方、厚生労働省発表の「日本人の食事摂取基準(2005年版)」では、たんぱく質の推奨量(約98%のヒトが不足しない摂取量)は、同年齢の男性で60g、女性で50gである。
(『健康・栄養食品アドバイザリースタッフ・テキストブック』p4)
とはいえ、もちろんこれは平均の話です。実際には不足のリスクのある方もそれなりにいらっしゃるのかもしれません。というわけで、平成17年度の国民健康栄養調査の「栄養素等摂取量の分布」*1を見てみましょう。
食事摂取基準でたんぱく質の推奨量、推定平均必要量が一定になるのが男18歳以上、女15歳以上なのでその年代で比較をすると、
パーセンタイル | 1 | 5 | 10 | 25 | 50 | 75 | 90 | 95 | 99 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
18−29歳 | 22.8 | 35.9 | 44.1 | 57.0 | 73.4 | 94.1 | 114.8 | 125.6 | 173.0 |
30−49歳 | 29.3 | 41.4 | 49.4 | 59.8 | 75.3 | 90.8 | 110.2 | 120.5 | 149.5 |
50−69歳 | 30.8 | 44.0 | 52.6 | 64.7 | 80.5 | 96.9 | 113.7 | 125.9 | 163.9 |
70歳以上 | 23.6 | 40.5 | 45.4 | 57.3 | 70.3 | 86.4 | 107.1 | 117.2 | 144.8 |
パーセンタイル | 1 | 5 | 10 | 25 | 50 | 75 | 90 | 95 | 99 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
15-17歳 | 32.7 | 43.6 | 50.9 | 58.2 | 69.9 | 88.2 | 104.0 | 113.0 | 130.4 |
18−29歳 | 17.5 | 30.5 | 38.1 | 48.7 | 62.3 | 77.0 | 91.1 | 101.0 | 122.0 |
30−49歳 | 23.3 | 35.0 | 40.1 | 51.1 | 64.0 | 76.1 | 89.2 | 97.6 | 120.5 |
50−69歳 | 26.3 | 37.5 | 43.2 | 54.0 | 67.0 | 83.1 | 99.2 | 108.3 | 139.6 |
70歳以上 | 25.3 | 33.4 | 37.4 | 47.8 | 59.8 | 75.6 | 91.8 | 101.4 | 123.9 |
となります(上が男性、下が女性)。これをみると、50パーセンタイルでは男女ともに推奨量をクリアしておりますが、25パーセンタイルとなると怪しいのがちらほらと見えてきます。ただ、推奨量は97.5%の人が必要量を満たすという値ですから、もちろんそれより低くても必要量を満たしている人もいるわけです。
では、推定平均必要量と比較すればどうなるかといえば、たんぱく質の推定平均必要量は男性同年代で50g、女性同年代で40gですから、25パーセンタイルでは満たしているといえますが、10パーセンタイルとなると怪しくなってくるようです。それにしても、男女とも25パーセンタイル以下の摂取量だと、18−29歳で70歳以上とほぼ同じかそれ以下しか摂っていないというのが驚きです。ほかの年代が摂りすぎているのか*2、18−29歳で摂っていない人が多いのか。
ともあれ、以上の比較によれば、たんぱく質摂取量の下位25%くらいのひとで推奨量を満せないひとがちらほらと現れ、同じく下位10%のひとでは推定平均必要量を満たしていないひとが現れる、ということになります。
しかし、これをどのようにみればよいのでしょうか。確か推定平均必要量とか推奨量とかを、栄養評価に用いる場合に集団に対して使える、使えない、というような決まりがあったように記憶しています。
食事摂取基準の概要の表1、「栄養素摂取量の評価(アセスメント)を目的として食事摂取基準を用いる場合の概念(エネルギーは除く)」を見てみれば、推奨量は集団を対象とする栄養評価には用いない、とあります。対して、推定平均必要量のほうは、集団を対象とする場合「習慣的な摂取量が推定平均必要量以下の者の割合は不足者の割合とほぼ一致する」らしいです。
今は広く集団を見ているので関係ないですが一応メモしておくと、個人を対象とする栄養評価の際には、推奨量は「習慣的な摂取量が推定平均必要量以上となり推奨量に近づくにつれて不足している確率は低くなり、推奨量になれば、不足している確率は低い(2.5%)」とあるので、推奨量の概念である、これだけ摂っていれば97.5%の確率で充足していますと評価していいみたいです。推定平均必要量は「習慣的な摂取量が推定平均必要量以下の者は不足している確率が50%以上であり、習慣的な摂取量が推定平均必要量より低くなるにつれて不足している確率が高くなっていく」と、なんのひねりもなくそのままなことが書かれています。
さて、たんぱく質摂取量分布と推奨量、推定平均必要量の比較をして、次に食事摂取基準による栄養摂取の評価について、推奨量、推定平均必要量の使い方を見ました。集団の栄養評価に使えるのは推定平均必要量のほうでした。そして、摂取量分布との比較で、たんぱく質摂取量の下位10%のひとで、推定平均必要量を満たしていない年代がちらほらと見えていました。
推定平均必要量は集団を対象とする場合、「習慣的な摂取量が推定平均必要量以下の者の割合は不足者の割合とほぼ一致する」わけです。推定平均必要量を満たしていない者の割合は、各年代でだいたい10%ほどなのですから、たんぱく質が不足している者の割合も、各年代でほぼ10%ほどである。ということになります。
うーん、イメージよりもかなり多いですねえ。口酸っぱくたんぱく摂取しろと言うのも、それなりにうなづける話でした。