肉がだめなら無農薬野菜を洗わずに食べればいいじゃない。

 と、肉を食べたくてぐずっている自分の子供に対して、菜食主義者の親が言ったとか言わないとかですが、もし仮に言っていたとすれば、彼、もしくは彼女は、己のビタミンB12供給源についてよく知っていたに違いありません。

獣肉、魚肉、鳥肉、乳製品は、(中略)唯一のヴィタミンB12源であり、(中略)完全な菜食主義者がヴィタミンB12欠乏症にまったくかからないとしたら、それは、かれらの食べる植物性食物に昆虫の残骸がまじっているか、ある種のコバルト消化バクテリアが入っているからであり、ほかの理由は考えられない。インドからイギリスに移住したヒンドゥー教徒菜食主義者が悪性貧血罹患率の増加に悩むのはそのためであると説明できる。イギリスでは、殺虫剤を使用し、また果物や野菜をよく洗うので、ヴィタミンB12供給源が一掃されてしまうのだ。
(『食と文化の謎 (岩波現代文庫)』p36)

 衛生は菜食主義の敵なのです。