地産地消についての疑問——生産と輸送の環境コスト

 大きな声では言えませんが、地産地消ってそんなに頑張って推進するべきものなのかどうか、実はずっと疑問に思っているのです。たぶんことの発端は「倫理的な食べ物はかえって有害かもしれない。」を読んだことでしょう。当時まだ今に比べれば年端も行かない、栄養学のイロハも知らなければ身土不二という単語も聞いたこともなかったわたくしは、巧みな言葉になす術もなく籠絡されたのでした。

 従いまして、栄養学を学ぶかたわらで身土不二の思想や地産地消礼賛の言葉を浴び続けても、「倫理的な(略)」がわたくしの体の中で抗体として作用して、それら思想を決して受け付けなくなったのです。

 さてさてしかし、年端も行かなかった頃もそして現在も、文意におおむね同意してとりたてて反論する箇所もない文章なのですが、ひとつ問題があるのです。それは、作物の生産に伴うエネルギーがわからないことです。

  さらに、輸送だけでなく生産に使われるエネルギーまで考慮すると、地元食品 (地産地消) はもっと環境に優しくないことがわかる。羊をニュージーランドで育ててイギリスに運ぶほうが、イギリスで羊を育てるよりも使うエネルギーが少ない。ニュージーランドの牧羊はあまりエネルギーを使わないからだ。

倫理的な食べ物はかえって有害かもしれない。

 その通り、だと思われる文章です。でも、実際どの程度エネルギーの差があるのかについてはわかりません。地産地消エコロジーと言うにしても、また逆に環境負荷が大きいのだと言うにしても、生産と輸送の合計でどの程度CO2排出しているかわからなければ、比べようもないのです*1

モデルメニューを用いた日本人の食事によるライフサイクルCO_2排出量」では、日本人一日のモデルメニュー(朝:洋食、昼:中華、夕:和、洋、中華)について、その際に用いる食材料の生産、輸送、さらには調理、廃棄各段階での消費エネルギー量とCO_2排出量を調べている、控えめに言って大変すばらしい研究です*2

野菜は、露地と施設栽培があるが、本推算では出来るだけ国産の露地栽培のデータを用いた。

 というのが少し残念で、本当はたとえばきゅうりならきゅうりについて、露地と施設栽培と輸入食材それぞれについてやって欲しかったわけですが、他人の研究です、贅沢は言えません。「どの程度環境負荷があるか」の一端だけでも垣間見れれば、それでよしとしましょう。

 このなかで、面白いなあというか、施設と露地でかなりの差がある食材では、

  • きゅうり(120g)
    • 夏:87.78g-CO_2
    • 冬:188g-CO_2
  • トマト(240g)
    • 夏:87.78g-CO_2
    • 冬:891g-CO_2
  • ピーマン(80g)
    • 夏:26.33g-CO_2
    • 冬:260.2g-CO_2

あたりは、夏採り冬採りでの環境負荷如実に違います。冬にトマトを食べる贅沢さ。これを見ると、地産地消の主張におそらくは含まれるだろう、「旬の食材を」というのは、確かに環境負荷の少ない食材と言えるでしょう。輸送による環境負荷が同じであれば、旬の食材を用いたほうがいいようです。

 前述したように同じ食材で輸入物と国産物の生産環境コストを比較することは出来ないんですが、まあ同じ果物ということで似通っているんじゃないかと思われる、国産リンゴとアメリカ産グレープフルーツの生産による環境コストを比較すると、

  • りんご(130g):51.63g-CO_2
  • グレープフルーツ(208g):76.34g-CO_2

となります。グラム数に違いはありますのでkgあたりのエネルギーにすると、りんごは1,277kcal、グレープフルーツは1,180kcalです。グレープフルーツは大規模に作っているからもっと単位当たりのエネルギーは少ないのかと思えば、案外国産リンゴと変わらないという結果です。

 では輸送*3によるものはどうなのか。あまり外国の食材は載っていないのですが、

  • グレープフルーツ(208g):94.46g-CO_2
  • 牛ひき肉(300g):121.5g-CO_2
  • コーヒー豆(40g):38.30g-CO_2

くらいでしょうか。茨城から卵を200g運べば6.611g-CO_2で、レタス160gを北海道から運べば53.08g-CO_2になる、というの挙げておくと、判断するときの一応の目安にはなるでしょう。

 個人的な感想を言えば、夏採り冬採りの違いに比べれば、北海道もアメリカもそう変わらないんじゃないでしょうか。だったら向こうで旬なものを持ってきたほうが、国内で旬でないものを頑張って作るよりも環境負荷は少ないんじゃないかと思います*4

 それを補強してくれそうなデータとしては、「一日の献立におけるLC-CO_2の割合」という、生産、輸送、調理、廃棄各段階で排出されるCO_2の献立に占める割合を示したグラフがあります。これによれば、和、洋、中華どの献立においても、生産におけるCO_2排出量が、総CO_2排出量の70-78%を占めています。輸送については8-10%、調理が10-20%です。

 もちろんこれは、

野菜は、露地と施設栽培があるが、本推算では出来るだけ国産の露地栽培のデータを用いた。

という残念な前提によるものも大きいのかもしれませんが、食材輸送の環境コストが案外少ないことが垣間見えた、と言えるのではないでしょうか。

*1:輸送については、フードマイレージで調べられます。

*2:読んでないけど、たぶん「調理時におけるライフサイクルCO2排出量の実践的定量」も同じような研究。こっちはCiNiiで無料で読める。

*3:東京まで輸送したときのもの

*4:もっとも、野菜については外国で採れたものを新鮮なまま持ってくるというのは難しいんでしょうけど。冷凍したらまた環境コスト増えるか?