牛乳低GIはポジティブ?

「食後高血糖の意義と薬物療法*1によれば、食後の糖処理速度に関する要因は、

  1. 胃排出速度
  2. 糖質の消化速度と消化・吸収率
  3. インスリン初期分泌
  4. 肝臓におけるブドウ糖の取り込み・排出速度
  5. ブドウ糖の抹消での利用速度

の5つであると言います。これらをみると、食物繊維とかトクホの「血糖値が気になるかたの食品」は2番の「糖質の消化速度と消化・吸収率」に関係するもので、先日みた牛乳は3番「インスリン初期分泌」に関係するものであると言えます。

 牛乳の低GIはインスリン分泌を促進する*2という、ちょっとわたくしのイメージする低GIとは違ったのですが、しかしながら、その機序はしっかり食後の糖食速度に関する要因に含まれているものであって、正統派の作用機序なのでした。

 実際、高血糖に対する薬物療法として使用される薬の中には、インスリンの分泌を促進することによって作用をなすものもあるそうです。

スルホニル尿素薬(SU薬)は、膵臓に対するインスリン分泌刺激により血糖改善作用を発揮する。
(「食後高血糖の意義と薬物療法」)

SU薬と同様、(グリニド系薬剤の)作用機序は膵臓β細胞に存在するSU受容体への結合であるが、ごく短期間で受容体から乖離することが特徴である。
(同上)

 したがって、牛乳の低GI効果をなんかうさんくさいと思ったのは、まったくもってわたくしの勉強不足によるものなのでした。が、その一方でやっぱりすっきりしない部分もあって、「“糖のながれ”の中心にある肝」*3にある図*4では、食後高血糖が膵β細胞の疲弊を生んでそれがインスリン分泌の低下をもたらすとあったり、

 また、膵β細胞が弱いとされる日本人の場合、炭水化物の量だけでなく、インスリンの分泌に負荷をかけないように食事の質にも配慮することが必要とされる。
(「食事交換表とカーボカウントの使い分け」*5

というように、インスリンの分泌促進が、必ずしもポジティブな現象ではなさそうな記述がみられます。

動脈硬化は血管の慢性的な炎症であるが)炎症マーカーである高感度CRPが食後高血糖とよく相関することや、食前と食後の血糖値の変動幅が大きいほど血管内皮細胞が侵害されやすいことなどが報告されている。
(「食後高血糖の意義と薬物療法」)

 というから、低GI自体の意義は伺うことができるのですが、β細胞をこき使ってそれをなしてもよろしいのでしょうか、神様*6

*1:水谷正一, 山田信博 臨床栄養 vol. 113 No. 1 2008.7 19-26

*2:だけではないけれど

*3:河盛隆造 医学のあゆみ vol. 229 No. 12 2009.6.20 1101-1106

*4:図6-A 糖尿病を発症させる悪循環

*5:幣憲一郎 臨床栄養 vol.113 No.1 2008.7 46-50

*6:というか、牛乳で分泌されるレベルのインスリンレベルで「酷使」なのかどうかを問うほうが先。