酸素水というものがあるらしい

 テレビや新聞といった文化的な産物とは縁のない生活をしておりますから、世の中に酸素水という代物があることを知ったのはつい先日、お盆に帰った実家で久しぶりに読んだ新聞の紙面広告からなのでした。その前日には、今炭酸水が大人気というテレビ番組を見ていたので、なんか二酸化炭素を溶かしたり酸素を溶かしたり忙しいなあと思ったものでした。

 二酸化炭素のほうは、シュワッとするから気持ちいいと言われれば、まあわたくしはそのシュワッがあまり好きではありませんしお腹がふくれてしまうのもマイナス材料なのですが、理由としてはわからなくはありません。炭酸=おしゃれが若い女性に定着した、との分析をその番組ではしておりましたが、それってむしろ昭和40年代くらいの感覚じゃないのとは思いながらも、そんなものかと得心したのです。

 しかしこれが、酸素水のほうになると、なにが目的なのかがまるで見当がつきません。

 別にシュワッともしないだろうし、見た目も普通の水と同じですから、おしゃれと言われてもわかりません。いや、酸素水という存在がおしゃれなのだと言われればこれもそんなもんなのかなあと思いはしますが、しかしおしゃれで流行るとして、その先駆けとなる生まれ出るきっかけみたいなものに、まったく思い至らなかったわけです。

 ところが、なんともなしに健康栄養研究所の「健康食品」の安全性・有効性情報を見ていたら、話題の食品・成分の欄に、酸素水があるじゃないですか。そうか、酸素水とは「健康食品」だったのか。道理でうさんくさい*1

 今のところの安全性・有効性につきましては該当するページをじっくり読んでいただければわかると思いますが、有効性を支持する研究はないようです。

 また「酸素水」とぱっと聞いて、活性酸素を除去するアンチエイジングのほうが市民権を得ていそうなのに、どうしてわざわざ酸素を溶かした水なんか飲むんだろう、活性酸素増えたりしないのと疑問に思ったのですが、こちらにつきましても今のところ、上昇傾向なものの有意な差は得られず、ヒトを対象にした6つある論文のうち安全性に言及されている1つの論文によれば、「酸素水を長期的に摂取することは概ね安全」のようです。

 次に、「酸素水」はどう健康にいいってことになっているんだろうかとgoogle先生に聞いてみました。

 酸素水のひとつ、oxygeno2のページオキシゲナイザーのページを見るに、「美容・健康の面で酸素が大変話題になって」いて、「酸素摂取量を増やし、より多くの酸素を取り込むことで様々な効果が期待できます」「ダイエット・運動時に」「美容と健康のために」「集中時やリラックス時に」とは書いていますが、なにがどうなのか具体的にはまったくわかりません。oxygeno2のページにありがたく載っている「兎を使った腸からの酸素吸収実験」の論文にしても、安全性・有効性情報に載っているなかで唯一動物を対象にした、つまりは参考研究の中でヒトに対する影響を見るのには一番根拠の弱い研究で、しかも消化管から酸素が用量依存的に吸収されることだけを示している*2に過ぎないものです。

 また、oxygeno2とオキシゲナイザーのページによれば、現代は呼吸だけでは酸素不足な時代で、より酸素を摂取しなければならないって、それなんて民間食法? 1番の「今まで買おうと思ってもいなかったものを、買ってくるようにという」、形を変えた6番「現代の加工法と貯蔵法が、食物の栄養素をすべて除去しているという」と8番「有毒な商品添加物や保存料にさらされていてあなたは危険な状態にあるという」は当てはまりそうだけれども。

 おそらく今まで誰も酸素を食事で摂取しようとは考えなかったと思うので、そういった意味ではとても斬新で、革新的で、シュールなジョークでも見ている気分になりました。

*1:「健康食品」すべてがうさんくさいというわけではありません的なフォロー。

*2:さらに、もとの論文の著者によれば「消化管からの酸素供給が肝臓の代謝過程に影響を及ぼすか否かについては更なる検討が必要と結論づけている」もの。