酵素等に対する防御機能について

 以前、酵素栄養学について触れたことがあります。そのときは「詳しくはほかのページで」というなんともお手軽な触れ方で、そして今回も詳しくは見ないのですが、食物から酵素を摂ることによって人の体で作られる酵素を節約して健康に過ごそう! というのがきわめて単純な酵素栄養学の紹介になるとは思います。

 食物に含まれる酵素が消化管内で働く可能性は低いだろうなあと思いつつもいまいち捨てきれない理由として、健康栄養研究所のフォーラムで、マンゴーのたんぱく分解酵素について質問がされていて、それについて明確な答えが出ていないというのがあります。質問は胃潰瘍食についてのもので、消化管上部ではまだ変性も分解もされていない食物由来の酵素が働く可能性も——あるいはこの場合は危険性も——考えられるということなのでしょうか。そういえば、ヒトの唾液に含まれるアミラーゼは、もちろん胃内の強酸環境によって変性失活するわけですが、それでも30分程度は活性を維持していたとの記憶があります。同じようなことが、食物由来の酵素についても起こっているのでしょうか。

食物摂取と唾液」によれば、マンゴーのたんぱく分解酵素ではありませんがパパイヤのたんぱく分解酵素について、

 ラットをパパイン(植物性システイン・プロテアーゼの一種)を含む飼料で飼育すると、口腔粘膜の炎症が生じ、飼育開始直後に体重の減少を見るが、3日目以降、顎下腺唾液中にシスタチンSの誘導が起こり、それに対応して体重の回復と増加が認められる。

という一方で、あらかじめシスタチンSを誘導させたラットを同飼料で飼育した場合、体重低下は見られず、

このことはシスタチンSの誘導がパパインの侵害効果を軽減ないしは消失させた可能性をしめしている。

とあります。

 ラットの場合はこのようにパパインの刺激によって誘導されるシスタチンSですが、ヒトでは常に固有唾液中に含まれているそうなので、初めてパパインに触れる方でも安心してパパイヤを食べることが出来ます。

 また、タンニンに対しても、結合して無毒化する高プロリンタンパクという唾液たんぱくがあって、これもまた、ヒトでは常に合成されているそうです。そのおかげで、消化管内で「食餌性タンパクおよび消化酵素の変性沈殿による消化障害や鉄の吸収阻害」を引き起こしたり、「消化管に対する発癌作用」の心配をすることなく、安心して草をムシャムシャできるというわけです*1

 マンゴーのたんぱく分解酵素やその他の食物由来の酵素がどこまで頑張れるのか、もしくはどこまで危険性があるのかについてはなんら答えていない文章ですが、少なくともパパインなどのシステイン・プロテアーゼや、その他食物由来の毒性物質について、ある程度唾液が防御してくれているのだ、いわんやほかの消化管をや。といった類いのことを思うのでした。

*1:いえ、これで完全に発がん性のリスクがなくなるというわけではないと思いますけど、との一般的フォロー。