一般の人がよくわかっていない便秘について

 「食物繊維の健康効果は、ちょっと、むずかしい」で紹介されている記事によれば、小麦ふすまに便秘改善の効果はないとか。

ブラン(小麦ふすま)に含まれる水に溶けにくい不溶性食物繊維は便秘の解消の役に立たず、それどころか一層悪化させるおそれさえあるとの研究報告が、28日の英医学誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(British Medical Journal、BMJ)」に掲載された。

小麦のふすまは便秘に効き目なし

 記憶によれば、水溶性ではなく不溶性食物繊維のほうにこそ便秘改善の効果があると習ったはずなので、これには結構驚きました。

 ただ、記事をよく読んでみればこの研究、対象者が「過敏性腸症候群と診断された」か「腸に慢性的な問題を抱えていると診断された」人なんです。これが少し気になります。後者が抱える慢性的な問題がどのようなものなのかは文面から把握できませんが、過敏性腸症候群

 便秘型(40%)あるいは下痢型(10%)、または便秘と下痢の交替型(50%)があり、腹痛、飽満感などの腹部愁訴があるが、なにも器質的な異常が認められない機能的な疾患である。
(『新しい臨床栄養学』p41)

とあるように、必ずしも便秘だけが症状とは限りません。

 さらに重要なことには、一口に便秘と言いますが、その原因は必ずしも同じではないということです。たとえば、大腸の機能障害によって起こる常習性便秘は、弛緩性便秘と痙攣性便秘とに分けらます。

 弛緩性便秘は、

 腸管の往復蠕動運動(撹拌)は正常であるが、大蠕動(移動)が低下しているために便の通過に時間がかかり、水分が過剰に吸収された状態である。
(『臨床栄養学食事療法の実習』p60)

で、痙攣性便秘は

 自律神経失調症過敏性腸症候群により腸管の緊張や運動が異常に高まり、便の通過が障害されて起こる。
(同上)

というものです。つまり、弛緩性の便秘は蠕動運動による便の移動が行われないのが原因なのに対し、痙攣性の便秘では逆に腸管の緊張と運動が異常に高まって、それによって便の移動が障害されることが原因となっているわけです。

 原因が違えば、当然とるべき対策も異なります。『食事療法の実習』によれば、食事療法として弛緩性便秘には

  1. 摂取量不足にならないこと
  2. 食物繊維を十分に摂ること
  3. 水分を適量に摂ること
  4. 適度な香辛料や脂肪を摂ること
  5. 酢の物や酸味の多い果物を摂ること

が挙げられていて、痙攣性便秘には

  1. 果物、藻類から水溶性食物繊維を摂ること
  2. 刺激性の食品を制限すること
  3. 生食を避け、低残渣食*1にすること
  4. 過労を避け休養をとって、ストレスの解消をはかること*2

が挙げられています。単純化すれば、弛緩性の場合は量と刺激を与え、痙攣性の場合はなるべく刺激を少なくして緊張を和らげる、といった感じでしょうか。

 さて、冒頭の研究に戻って、過敏性腸症候群です。

 (過敏性腸症候群は)排便時に下腹部痛があり、兎糞状の排便(けいれん性便秘)や、また分泌が亢進すれば粘液便(粘液仙痛)になる。
(『新しい臨床栄養学』p41)

 どうやら、過敏性腸症候群での便秘は痙攣性便秘のようです。痙攣性便秘は食事療法に「果物、藻類から水溶性食物繊維を摂ること」が挙げられています。さらに、痙攣性便秘のほうには「低残渣食にする」というのが挙げられていますし、『新しい臨床栄養学』では、弛緩性便秘には果汁や牛乳、食物繊維を摂取することが望ましいと記した上で、「一方、けいれん性便秘にはこれらは禁物」と書かれています。

 こう見ると、冒頭の研究で小麦ふすまに便秘改善の効果がなく、どころか一層悪化させる恐れがあるのは、当たり前な気がしてきました。だって、そういう便秘(=痙攣性便秘)について主に見ているわけですから*3。一般の人は不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の差がよくわかっていないだけでなく、便秘についても、おそらくよくわかっていないのです。

 なんてかっこよくしめたいものですけれども、かくいうわたくし自身、冒頭記事に驚きつつ、でもそういえば過敏性腸症候群ってあんまり便秘なイメージないけどどうなの? と教科書あさって辿り着いた次第です。偉そうなことはまったく言えないのでした。

*1:消化吸収されずに腸に残るものが少ない食事

*2:って、これ食事療法じゃないじゃん!

*3:もちろん、だからといって研究が無意味とは思わない。追認だって大切でしょ。ついでに言えば、「水溶性食物繊維はストレスが引き起こす便秘の解消に効果がある」(小麦のふすまは便秘に効き目なし)のも、大切な追認。