食料自給率を上げろ上げろと言うけれど

先ごろ一〇〇%輸入に頼っているシンガポールの高官に食料安全保障という考え方について聞きましたら「イラクのようなことをしない限り、食料がカットされることはないと思う」という答えでした。
(『食の文化フォーラム―国際化時代の食』p66)

 話者はこのあと、あの人口だから言えることとも思うとは続けるんですが、しかし本当に、このシンガポールの高官のように考えることはできないんでしょうか*1

 そもそも、自国で食料を作っていれば安定供給できるというのも、怪しいように思います。

 江戸時代には藩単位で見れば江戸は自給率ゼロに近くてほとんど輸入していたにもかかわらず、飢饉が起きて餓死者がでるのは消費地の江戸ではなく生産地の東北であったそうだし*2、時代を現代に戻しても、飢餓の原因は必ずしも食料の不足ではなく、購入力の不足であったりします*3

 とすれば、食料安全保障のためだと米麦を頑張ってつくったところで、いざというとき外へ出ちゃって国内にたいして残らない、なんて事態にはならないのでしょうか。

 どうも、食料安全保障から自給率上げよう運動に、イマイチ乗り切れないのでした。

*1:1994年に出ている本なので、「イラクのようなこと」とはクウェート侵攻のこと。

*2:『国際化時代の食』p64

*3:問題は食料不足ではなくて貧困なのです。