食品の文化的扱いについて

 場所が変われば意見も変わる。食べ物についての意見も例外ではないようです。タイでは北部・東北部とそれ以外の地域では主に食べる米の種類が異なっていて、前者はもち米、後者はうるち米を主に食べる地域であるそうです。そして両者ともに、自分たちの主食である米について、いいイメージを語ります。

都市での肉体労働者の多くは東北部出身者だが、彼らは、ウルチ米ではモチ米を食べるのに比べて力が出ないと言う。さらにモチ米の方が腹持ちがよいと言う。しかし、中央部の人々に聞くと、ウルチ米の方が腹持ちがよい、という逆の答えが返ってくる。
(『食物をめぐる人と自然の関わり - 東北タイでの事例から- 』*1

 日本のスポーツ選手でもまれに聞きます。オリンピックに行くのに、米食じゃないと力が出ない、だから炊飯器と米を持っていく。

 力の出る出ないは、純生化学的に考えれば、摂取したエネルギー量の大小でしょう。食物のカロリーは誰が食べようとたいして変わるわけではないのだから*2、エネルギーの多い食品は誰が食べても、多くのエネルギーを得られるはずです。したがって、力の出る食品はどこに行っても力の出る食品であるのが正しいあり方のように思うのですが、実際は文化によってまったく異なる扱いを受けています。

 腹持ちについても、純粋にはいつまでエネルギーを供給し続けられるかに依存するでしょうから、人によって食物の消化吸収速度が大きく違わないとすれば、腹持ちする食品はやはりどこでも腹持ちするはずです。しかしこれまた、実際には文化によって異なる扱いを受けています。

 パン食ご飯食の血糖推移から空腹度合いを推測しても、結局のところ勝利をかっさらうのは文化に違いないのでした。

ポールフィールドハウスもたぶん言ってた

 確か「食と栄養の文化人類学―ヒトは何故それを食べるか」では、様々な地域で食品を陰と陽、温と冷などに二分する文化があるものの、その分類には統一性がなく、ある地域で「温」であった食品が別の地域では「冷」に分類されていることがある、と言っていました。これなども、文化によって食品が異なる扱いを受ける好例でしょう。

*1:http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/56732

*2:消化吸収能力にそんなに大きな違いはない、はず。根拠もなにもないからただの信念なんだけど。