ニートが熱い!

 というのが、1ヶ月くらい前に参加した研修会で語られたことであるように思うのです。ニートとはNEAT、NoneExercise Activity Thermogenesisの略で、運動以外の身体活動のことです。どうやらこれが今、熱いらしい。

 ヒトはなぜ太るのか。簡単には、摂取エネルギーと消費エネルギーの差し引きで、消費エネルギーが勝ってしまうから太る、のだとは思います。ではその差を縮め、もしくは消費エネルギーのほうを大きくするためにはどうしたらよいのかというのが、ダイエットに励む人たちとその周辺の人たちのテーマであるわけです。

 ある人は言います。炭水化物を抜けばいいのだと。またある人は言います。基礎代謝を上げればいいのだと。しかしながら、前述の研修会では、以下のように結論づけられていたと思うのです。すなわち、ニートを上げればよいのです、と。

 1日の消費エネルギーは、ほぼ6割が基礎代謝、1割が食事に伴う発熱*1で消費され、残りの3割が身体活動(=運動+運動以外の身体活動)で消費されるとのことです。ですが、運動*2によって消費されるエネルギーは、意外なほど少ないと言います。

 例に挙げられたのは、速歩です。

 運動として、1日30分間の速歩を、週5回行ったとします。速歩は4METs*3なので、体重が60kgの人であれば、

 (4-1)METs × 30分 × 5回 / 7日 = 64kcal

1日平均にすると、運動によって消費しているのは65kcal程度になってしまいます。これは、1日に消費するエネルギー量のおよそ3%程度だそうです。しかも、1日30分以上の運動を週2日以上実施する人の割合は、人口の約3割*4なので、かなり運動している部類の人でこれです。大部分の人はもっと少ないと予測され、運動によるエネルギー消費は1日平均65kcalもないのが実情でしょう、と講演者*5はおっしゃるのです。

 1日65kcalは、確かにたいしたエネルギー消費ではなさそうです。それでも、1ヶ月で1,950kcal、半年で11,700kcal、1年続ければ23,400kcal=体脂肪3kgちょっとはあります。ということは5年で15kg以上の差がつくわけです。そうそう馬鹿にしたものでもないでしょう。しかしながら、運動以外の身体活動のほうが、運動に比べて、1日に占める消費エネルギーの割合が遥かに大きいのだとの説明には、頷かざるをえません。

 さて、このような説明でもってNEATの重要性に目を向けさせたあとに、講演者はNEATの研究事例をいくつか持ち出します。

 標準体重者と肥満者の1日の活動、特に運動以外の身体活動を比較した研究*6によれば、両者で座って過ごす時間の長さに、大きな差が見られたと言います。標準体重者は1日あたり407分、肥満者は571分座位で過ごすのですが、これによって両者は、352±65kcal/日消費カロリーが異なる、というのです。

 また、1,000kcal/日の過食を8週間続けた研究*7によれば、1,000kcl/日の余剰エネルギーは、下記の5つに変換されたそうです。

  1. 体脂肪:39%
  2. 運動以外の身体活動(NEAT)33%
  3. 食事誘発性体熱産生:14%
  4. 基礎代謝:8%
  5. 除脂肪:4%

 そして、さらに重要なことには、体脂肪があまり増加しなかった人は、実験期間中運動以外の身体活動量(=NEAT)が増加したというのです*8

 では、NEATの多くはどのような活動なのか。それを示した研究がふたつ紹介されたのですが*9、そのうちのひとつによれば、基礎代謝量と食事誘発性体熱産生以外のエネルギー消費量の内訳としては、8.5%が低強度活動、14.3%が生活活動、9.3%が歩行・走行であったといいます*10

 つまるところ、歩いていたり走っていたりするわけじゃない、たいした強度を伴わない活動で、1日のエネルギー消費の20%以上が消費されている結果です。

 以上を持って、「身体活動量は運動によってではなく、NEATによって決定される」ということを講演者は語ったのでした。

じゃあとりあえず

 身体活動をあげてやろうと、しばらくの間家で本を読むときは立っていたのですが、先ほど詳しすぎるMETs表*11を確認したところ、「立位で静かにする:列に並ぶ」は1.3METsで、「座って静かにテレビを見る」とも、「横になる:読書」とも同じじゃないですか! 「立位:そわそわする」で1.8METsだから、せめておしっこ我慢しながら読書するくらいしなくちゃいけなかったか。

*1:「食事誘発性体熱産生」と漢字を並べて難しく言うことがあります。学校にいたときは「特異動的作用」のほうをよく使ったけど、もうこれは言わないの?

*2:「運動」の定義がわからないと、以下の話を勘違いしてしまうかもしれません。この場合の「運動」は、「健康増進や体力向上などの意図を持って、余暇時間に行われる活動」のことです。したがって、通勤に自転車で行くのは、日常用語では「運動」であると思いますが、この場合の「運動」には該当しません。でもこれ、厳密に定義にしたがうと、たとえば車なら15分で行けるところを、健康増進や体力向上の意図を持って、1時間かけて歩いて行ったらどうなんだろう? 意図の部分もクリアしてるし、60分-15分=45分は本来なら余暇の時間で、ならば余暇の時間に行われている活動=運動と言えなくもないんじゃないか、なんて思うんだけど。

*3:例によって、健康栄養研究所の詳しすぎるMETs表によれば、通勤通学の歩行で4METsとある。だからそんなに早くないかもしれない。

*4:確証はないけど、たぶん国民健康栄養調査の結果ではなかろうかと。平成22年度の結果で、同条件を満たすのが男性34.8%、女性28.5%とある。

*5:田中茂穂 国立健康栄養研究所 基礎栄養研究部部長

*6:「Levine et al., Science 2005」とのことで、たぶんこれだと思う。なにぶんgoogleの翻訳でお手軽にすませているので、実際は違う内容かもしれません。

*7:こちらもScienceに掲載された「Levine, 1999」とある。たぶんこれかなあ。

*8:記憶によれば、運動したあと体重が減らない場合は、NEATによって身体活動量が調節されたのだ、というのを聞いた気がするのですが、資料にもないしメモにも残っていない。記憶のねつ造か?

*9:「Oshima et al RACMEM, 2008」「Bonomi, Scand J Med Sci Sports, 2010」だそうです。これはまったく探していません。

*10:低強度活動と生活活動の境は、皿洗いをするくらいが生活活動、それ以下が低強度活動、だそうです。

*11:http://www0.nih.go.jp/eiken/programs/2011mets.pdf