「アルカリ性食品・酸性食品』について その2

 さて、先の記事の続きで、高尿酸血症痛風による尿路結石の予防を見てみましょう。

 blogをさかのぼればわかることですが、わたくしは数年前まで管理されるほうの栄養士で、管理するほうの栄養士になるための勉強に励む日々を、多少なりとも送ったのでした。そのとき参考にした国家試験対策の本には、尿酸は酸性で溶解度が低くなり、アルカリ性では高くなるので、高尿酸血症の際には尿路結石予防のため、尿をアルカリ化する食品を摂るようにと書かれていたのです。

高尿酸血症痛風の生活指導

  1. 肥満解消
  2. 高プリン食を控える
  3. 尿をアルカリ化する食品(海藻、大豆、ほうれん草など)の摂取
  4. 十分な水分摂取(尿量確保による尿路結石の予防)
  5. 飲酒制限(アルコールは内因性プリン体分解亢進と尿酸排泄低下の因子)
  6. 適度な運動

(『クエスチョンバンク2011*1』p166)

 これって、言い方は変えているけど要するに「アルカリ性食品」でしょ、と思うわけです。まったく、「アルカリ性食品とは言わない」って、単なる言葉狩りなのかいと、このように思ったのでした。

 しかしながら、栄養士学校に行っていた時分に使用した教科書を見ても、高尿酸血症痛風の食事指導に「尿をアルカリ化する食品の摂取」は出てきません。

 そのうちのひとつ、『臨床栄養学 食事療法の実習』*2では、痛風の食事療法として

  1. プリン体の制限
  2. 適正なエネルギー摂取
  3. アルコール飲料の抑制
  4. ナトリウムの制限
  5. 十分な水分摂取
  6. その他

とあり、その他には「他の栄養素については、一般的な生活習慣病の予防食に準ずる」とあります。「尿をアルカリ化する食品」は全く出てきません。

 もうひとつ、『新しい臨床栄養学』*3でも

(1)食事療法 高プリン食、高カロリー食、アルコールはすべて制限し、水分を多く摂る。
(『新しい臨床栄養学』p93)

と書いてあるのみです。

ガイドラインを見てみよう

 このようなときは、しっかりおおもとにさかのぼって見てみるのが一番でしょう。調べてみると、高尿酸血症痛風は治療のガイドラインなるものが策定されていますので、そちらを参考にしましょう。わたくしなどが評価するのも変な話ですが、要点とエビデンスが簡単にまとめられていて、主な利用者は医療関係者なのでしょうけど、それ以外の人にとっても大変読みやすいと思います。

 さて、こちらの公益財団法人痛風財団のサイトで、ダイジェスト版のPDFがあるのでそちらをまず見てみましょう。

 尿路結石の防止の欄には6つの要点がまとめられているのですが、そのうちのひとつに尿をアルカリ化することが書かれています。

尿アルカリ化はクエン酸製剤を中心とし,尿pHは6.0〜7.0の維持を目標とする。並行してプリン体摂取制限などの食事療法が必要である。

 では、プリン体摂取制限「などの」食事療法とは、どのようなものでしょう。ここでは詳しく述べられていませんが、第4章「高尿酸血症痛風の生活指導」に、食事療法についての要点があります。

食事療法としては適正なエネルギー摂取、プリン体・果糖の過剰摂取制限、十分な飲水が勧められる。

 文中には乳製品摂取の勧め、それからやはり、アルコールの制限が挙げられています。ここにも、「尿をアルカリ化する食品」はないのです。

 ということは、クエスチョンバンクの間違いかい、とわたくしは思いました。試験対策の参考書にだって、間違いのひとつやふたつ、あってもおかしくありません。ましてわたくしの買ったクエスチョンバンクは2011年版。ガイドラインは2010年だけど、対応し遅れてしまったのだと、わたくしは一度合点したのでした。

 ところがどっこい、こちらのMinds医療情報サービスというところで見れるガイドライン全文を参照してみると、またまた話が違ってきます。

 やはり第4章、「高尿酸血症痛風の生活指導」です。

 もちろん要点はダイジェストに挙げられているものと変わらないのですが、文中には

また尿の中性化に有効であるアルカリ性食品は、尿酸の尿中での溶解度を高める効果からも大いに勧められる。

との記述があります。「尿をアルカリ化する食品」どころか、「アルカリ性食品」です。なんだー、タブーじゃなかったのかい。

 このアルカリ性食品、具体的には何ら記述がなくてどの食べ物がそうかは全然わからないのですが、第1章「高尿酸血症痛風の最近のトレンドとリスク」のなかの「尿路結石」のページにおいて、

一方、尿pHは食事内容にも影響され、動物性蛋白質が多い食事は野菜中心の食事に比し、尿中尿酸排泄量が多く、尿pHも低下しやすい。

と、エビデンスレベル3ながらも*4、参考文献付きで記されていますので、「アルカリ性食品」とは「野菜中心の食事」を念頭に置いているものと思われます。

 ついでながら、こちらの『新ガイドラインを実地診療に活かすためのフローチャート』では、「尿をアルカリ化する食品の摂取を推奨する」とあり、尿をアルカリ化する食品と尿を酸性化する食品、さらにその影響の大きさについての表があるのですが、参照元が四訂食品成分表なのです。

 といってもよくわからないかもしれませんが、現在の食品成分表は2010年に発行された、「日本食品標準成分表2010」です。その前が、五訂増補の食品成分表というやつで、これが2005年です。四訂の食品成分表は、Wikipediaさんによれば*5、1982年! だいぶ昔の資料です。

 これ、昔の資料を引っ張りだすのにはそれなりの理由があって、おそらくは五訂の成分表からは、アルカリ度、酸度なる項目がなくなっているのでしょう。逆に五訂増補からしか持っていないわたくしは、成分表にアルカリ度、酸度なんて項目があったことを知りません。『食べ物と酸・アルカリ』*6の文中で、

現に三訂英国食品成分表(1960)ではこのような当量計算によって求められた酸度、アルカリ度が示されていた(ただし、現在の英国食品成分表には示されていない)。

とありますので、日本の成分表にも昔はそんな項目があったのかもしれません*7

 ですが、これ本当に使用するとしたら、また食品のアルカリ度、酸度なる性質が意義のあるものだとしたら、1982年の資料を引っ張りだすのはどうなのでしょう。『アルカリ性食品酸性食品の誤り』*8で著者が主張していましたが、滴定や当量計算で求めたアルカリ度、酸度が、そのまま体内で意義をなすわけではないのでしょう。でも、1982年の資料が、消化吸収率やら調理損失やら体内動態やら、そこまで計算してアルカリ度、酸度を算出しているとは、あまり思えません。

 アルカリ性食品酸性食品なる分類が意義をなし*9ガイドラインに示されているかように医療現場で使用するとするならば、それこそもっと研究した、「アルカリ性食品酸性食品当量表」なるものが必要だろうにと、思うのでした。

*1:クエスチョン・バンク管理栄養士国家試験問題解説 2011

*2:臨床栄養学食事療法の実習

*3:新しい臨床栄養学

*4:「よくデザインされた非実験的記述研究がある。ケースコントロールを含む」だそうで。ちなみに1aが一番高く、3は上から5つ目。下から3つ目。

*5:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E9%A3%9F%E5%93%81%E6%A8%99%E6%BA%96%E6%88%90%E5%88%86%E8%A1%A8

*6:http://ci.nii.ac.jp/naid/110001826976

*7:未確認なので、違うかもしれません。

*8:アルカリ性食品・酸性食品の誤り (食品・栄養・健康ニューガイドシリーズ)

*9:一度は意義をなさないで納得したわたくしなのですが、2010年発行のガイドライン様に言われては、ひょっとしたら意義をなすのかもしれない。くらいのことは、思わざるを得ないのでした。