ペントースリン酸回路のお勉強

 先日

 赤血球はミトコンドリアを欠いており、それ故、つねに(嫌気性の)解糖とペントースリン酸回路に完全に依存している。
(『イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書27版』p154)

なんてことを引用しながら、やはり毎度のようにその文章をちゃんと理解しているわけではなかったのです。薄れかかった記憶によれば、ペントースリン酸回路ってリボースを供給していて、エネルギー産生には関わっていなかったような気がします。

 でもこの文脈で出てくるってことは、エネルギーも産生するんだろうか、いやそもそもペントースリン酸回路ってどういうのだっけ。なんてことを思ったので、今日はペントースリン酸回路のお勉強です。

ペントースリン酸回路の機能

 ペントースリン酸回路の主な機能は、

になります。ここだけ見てもわかるように、エネルギー産生には直接関わっていないようです。

 解糖ではNAD+からNADHとなるのに、ペントースリン酸回路ではNADP+が用いられ、NADPHが生成されるのが特徴です。

ペントースリン酸回路の反応経路

 ペントースリン酸回路は、解糖系の中間体であるグルコース 6-リン酸から始まって、やはり解糖系の中間体であるフルクトース 6-リン酸、グリセルアルデヒド 6-リン酸になることから、解糖系の側路と位置づけられているそうです。その反応経路は、

  1. グルコース 6-リン酸 → リブロース 5-リン酸
  2. リブロース 5-リン酸 ←→ リボース 5-リン酸とキシルロース 5-リン酸
  3. リボース 5-リン酸とキシルロース 5-リン酸 ←→ フルクトース 6-リン酸とグリセルアルデヒド 3-リン酸

です。このうち第一段階でNADPHを産生し、CO2を生じます。また、この反応のみ不可逆的で、ほかの第二段階、第三段階は可逆的な反応になります。

 したがって、脂肪酸とかステロイドとかをたくさん産生したいという場合は、グルコース 6-リン酸からリブロース 5-リン酸になる反応を通じてNADPHを生成し、リブロース 5-リン酸はそのあと第二、第三の反応でフルクトース 6-リン酸とグリセルアルデヒド 3-リン酸になる、という経路になります。しかし、必要とされるものがリボース 5-リン酸の場合は、別に第一反応で生成されるNADPHはいらないので、第三反応を逆行して、フルクトース 6-リン酸やグリセルアルデヒド 3-リン酸からリボース 5-リン酸へと至る経路をたどることになるわけです。

たとえばNADHPが必要な場合はトランスケトラーゼとトランスアルドラーゼが働き、Ru5PからR5P、Xu5Pを経てGAPとF6Pへ流れ、(中略)また細胞が核酸合成などのためにR5Pを必要とする場合は、反対にGAPとF6Pが解糖系から供給され、トランスケトラーゼとトランスアルドラーゼ反応を逆行してR5Pを生成する。
(『人体の構造と機能〈2〉生化学 (スタンダード栄養・食物シリーズ)』p142)

(Ru5P:リブロース 5-リン酸、R5P:リボース 5-リン酸、Xu5P:キシルロース 5-リン酸、GAP:グリセルアルデヒド 3-リン酸)

 また第二反応ではリボース 5-リン酸とキシルロース 5-リン酸を生成するわけですが、この生成される割合も細胞によって異なります。核酸合成にリボース 5-リン酸をたくさん必要とするならリボース 5-リン酸が、NADPHが欲しいだけならキシルロース 5-リン酸が多く生成されるわけです。

それで、赤血球はどう「完全に依存」しているのよ

 で、頭に戻って赤血球がどうこの回路に依存しているかというと、やはりというべきか、エネルギーについてではなくNADPHについてみたいです。NADPHは酸化型グルタチオンを還元型グルタチオンにする反応に必要で、この還元型グルタチオンは、過酸化水素を分解・除去するために使われます。

H2O2の蓄積は細胞膜に酸化ダメージを与えて、赤血球の寿命を短くし、最終的には溶血を引き起こす。
(『イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書27版』p199)

 還元型グルタチオンが過酸化水素を分解・除去する反応は、抗酸化ファンにはおなじみのセレンを含むグルタチオンペルオキシターゼという酵素が触媒するらしいのですが、

グルタチオンペルオキシターゼ活性はNADPHの供給に依存しており、NADPHは赤血球ではペントースリン酸回路でしか合成されない。
(同 p203)

ということなのです。

 つまり、「赤血球は(中略)(嫌気性の)解糖とペントースリン酸回路に完全に依存している」というのは、エネルギーは解糖に、NADPHの供給はペントースリン酸回路に完全に依存していると、こういう意味のようです。したがってもとの文脈に戻れば、だから血糖の維持は大切だということでしょう。

補足

 今の自分としては、ペントースリン酸回路の経路に関してこの程度の抑え方で満足なのですが、あとで読んだときに勘違いするといけないので一応つけたしておくと、1分子のグルコース 6-リン酸から1分子のフルクトース 6-リン酸と1分子のグリセルアルデヒド 3-リン酸を生じるわけではないのです。

ペントースリン酸回路は(中略)3分子のグルコース 6-リン酸から、3分子のCO2と3分子のペントース(五単糖*1)を生じる。ペントースは再変換されて2分子のグルコース 6-リン酸および1分子のグリセルアルデヒド 3-リン酸(解糖系の中間体)を再生する。
(『イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書27版』p195)

 エピマー化だとか異性化だとか*2もそのうち勉強するかもしれないけど、今はいいや。

*1:本文のまま。たぶん五炭糖。

*2:なんでも、リブロース 5-リン酸は異性化してリボース 5-リン酸に、エピマー化してキシルロース 5-リン酸になるそうですよ!