菜食とビタミンB12についてのお勉強
以前「肉がだめなら無農薬野菜を洗わずに食べればいいじゃない」などと言ったわけですが、そちらのコメント欄で「マクロビ論文5 海藻とビタミンB12」を紹介されたので、そちらを参考にしながら菜食とビタミンB12について調べてみました。
まず「海藻とビタミンB12」の内容を簡単にまとめてみると、
- マクロビ社会でビタミンB12が含有されていると信じられている食品で、ビタミンB12が検出されなかった。
- ビタミンB12には人体で利用される活性型と、利用されない不活性型がある。微生物測定法では不活性型も一緒に測定されてしまう。
- したがって、食品のビタミンB12の有無を測定するには、尿中メチルマロン酸(MMA)を指標とするのがよい。
- それに基づけば、ビタミンB12源としてさらなる研究に値するのは、調査した食品のなかではインドネシアとタイのテンペ、生海苔、円石藻類のみであった。
といった感じになります。
マクロビ社会でビタミンB12が含有されていると信じられている食品で、ビタミンB12が検出されなかったことについて
論文3にあるように、マクロビ社会でビタミンB12が含まれていると信じられていた食品(テンペ、しょうゆ、たまり、麦みそ、米みそ、豆腐、他の発酵食品(甘酒、梅干、ザワークラフト)、全粒穀物には、ビタミンB12が検出されなかった。
マクロビ論文5 海藻とビタミンB12
とありますが、上記の各食品で五訂増補の日本食品標準成分表に掲載されている物を調べてみると、そもそもビタミンB12が含有されていないか、含有していたとしてもごくわずかしか含まれていない物で、どっちにしてもたいした影響はないように思います*1。たとえば、米みそには0.1μg/100gのビタミンB12が含まれていますけど、これで必要量を満たそうとすれば成人男子で2.4kgのみそを食べないといけません。これは現実的じゃない量でしょ。
ちなみに、五訂増補日本食品標準成分表のビタミンB12は、微生物学的定量法で測定されています。わたくしはこの五訂増補しかもっていないのですが、昔の成分表だとこれら食品にビタミンB12は含有されていることになっていたんでしょうか。
ビタミンB12に活性型と不活性型があることについて
これについてハーパーさまに尋ねてみると、
微生物の成長因子であるいくつかのコリノイド(ビタミンB12のこと)は、ビタミンB12活性をもたないばかりか、ビタミンの代謝拮抗物質であると考えられる。ビタミンB12はもっぱら微生物により合成されるが、実用的には動物起源の食品にのみ見出され、植物由来のビタミンB12源は存在しない。
(『イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書27版』p529)
と教えてくれました。これにはいくつか重要なことが含まれていて、
したがって、微生物学定量法で測定したビタミンB12と人体でのビタミンB12活性が異なるということ、これはさらに、
- ビタミンの代謝拮抗物質であると考えられる。
から、微生物学的定量法で測定するとビタミンB12が含まれている食品を摂ったとしても、実は代謝拮抗物質のほうで体内のビタミンB12状態を悪くしてしまうことがあることを意味しています。実際、「海藻とビタミンB12」で紹介されている、乾燥海苔の摂取によって後述する尿中メチルマロン酸がどう変化するかを調べた日本の研究によれば、乾燥海苔の摂取で尿中メチルマロン酸の値がさらに悪化したそうです。
乾燥海苔の摂取はMMA値の状態をさらに悪化させていた。これは海苔を食べると人体にある(活性型)ビタミンB12をさらに減少させ、B12欠乏症の人々に害を及ぼす可能性があることを示している。
マクロビ論文5 海藻とビタミンB12
食品中のビタミンB12の有無を測定には、尿中メチルマロン酸(MMA)を指標とするのがよい。
お手軽にひとつの引用ですませてしまえば、
尿中メチルマロン酸は、正常値0〜3.5mg/日であるが、ビタミンB12欠乏者では300mg/日以上となり、これによってビタミンB12の栄養状態を診断できる。
(『健康・栄養食品アドバイザリースタッフ・テキストブック』p26)
だそうです。
ビタミンB12源としてさらなる研究に値するもの
ここで、乾燥海苔は除外されて生海苔は残っています。これは、
10人の非ベジタリアンの被験者を用い、MMA値がどう変動するかも調べた。その結果、乾燥海苔を食べた被験者はMMA値が77%上昇し(ビタミンB12が減少したことを示す)、生海苔を食べた被験者はMMA値が5%上昇した。
マクロビ論文5 海藻とビタミンB12
という研究をふまえてのものでしょう。
CiNiiで見つけた「完全菜食とビタミンB12欠乏」は、生後から完全菜食な玄米食を行っている6人の男女を対象に、血清ビタミンB12値と尿中メチルマロン酸、その他ヘマクリ等を測定するとともに、採血前一週間の食事内容(特に海苔の摂取)を調査したものです。これによれば、一日あたりの海苔の摂取量が2gと0gであった二名で、尿中メチルマロン酸が高値になっている*2ものの、一日あたりの海苔の摂取量が4g以上であった他の4人については、コントロール群と比較して高値ではない結果でした*3。こちらの結果だけを見ると、海苔*4はビタミンB12源として有望なように思います。
思いますが、先ほども記したように、どうやらビタミンB12には人体にとって活性型と不活性型があって、不活性型はただ体内で利用されないだけではなくて代謝拮抗物質であるので、悪くするとビタミンB12状態をさらに悪化させることになります。
従いましてヴィーガンその他厳格な菜食主義者におかれましては、サプリメントか、もしくはやはり、無農薬野菜を洗わずに食べるかしてビタミンB12を積極的に摂取されたほうが、より安全だろうと思われます。
言われなくてもわかってますか、そうですか。