食という字は「人」を「良くする」と書きます

 というのは、食育の末端にいるとそれなりに聞く言葉です。「人」を「良くする」、食とは本来そのようなものなのだから、我々も原点に立ち戻り、そのような食べ物を選んで食べましょう。なんて具合に講演を締めくくるのです。

 しかしながら、これは本当なのでしょうか。おそらくは金八先生のおかげで流通した「人」という字にしたって、別段「ヒトとヒトが支えあっている」わけではなくて、単に「人が立っている様子」から来ているわけです。字面からそれっぽいことを言って説得力を増そうというのは、なんだかうさんくさいです。

 というわけでgoogle先生で見つけた漢字原子論 : 漢字の成り立ちというサイトで調べてみれば、「食」という字は「人」と「良」の組み合わせではなく、「亼」と「皀」からなるとあります。どちらもあまり見慣れた字ではありませんが、「亼」は「ふたをかぶせること。合わせること」から、「皀」は「皿に盛ったごちそうの姿」から出来ているそうです。

 また、大漢語林をあたってみれば、甲骨文字等が記されたあとに、

甲骨文でよくわかるように、食器に食物を盛り、それにふたをした形にかたどり、たべもの・くうの意味を表す。

とあります*1

「食」という字は「人」を「良くする」と書きますと言われたら、「いえ、あの字は人も良いも関係なく、ふたと食べ物です」と心の中で反論しましょう。

*1:甲骨文は先に挙げた漢字原子論 : 漢字の成り立ちをご参照ください。