脱共役たんぱく質のお勉強――にんにくを食べると発熱が増える

 にんにくを食べると褐色脂肪細胞のミトコンドリア内に脱共役たんぱく質が増えるというのを書いたけど、実のところ脱共役ってなんなのさと思っていた。ハーパーさま(『イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書27版』)に聞いてみると、話はミトコンドリアの構造にまでさかのぼらないといけないらしい。

 ミトコンドリアはエネルギーを産生するところで、その生体膜は二重構造になっている。だいたいなんでも通す外膜と、選択的に決められたものしか通さない内膜だ。内膜の内側をマトリックス、外膜と内膜の間を膜間腔という。内膜にはATPを産生する酵素や、電子伝達を行う酵素がある。僕の理解によれば、ここでいう「共役」は、この電子伝達を行う呼吸鎖(酸化)とATP産生(リン酸化)が強く関連しあっているという意味みたいだ。

 呼吸鎖は、解糖系やクエン酸回路などで得られたNADHやFADH2のプロトンを、CoQ、シトクロムCを通じて最終的には酸素に渡すまでの過程だけど、それぞれの段階でマトリックスから膜間腔へプロトンを汲み上げている。

 NADHはミトコンドリア内膜の複合体IでCoQにプロトンを渡し、その際マトリックスにあるプロトンを4つ膜間腔に汲み上げる。CoQのプロトンは複合体IIIでシトクロムCに渡り、その際にも4つのプロトンが膜間腔に入る。シトクロムCのプロトンは、今度は複合体IVのなかで酸素に渡り、酸素は水になり膜間腔には2つのプロトンが放出される。

NADH-Qオキシドレダクターゼ(複合体I)は(中略)NADHからの電子をQへ伝達する反応を触媒する。その際4つのプロトンH+が膜を横切って膜間腔へと汲み出される。
(『イラストレイテッド ハーパー・生化学』p116)

 QH2の電子は複合体III(Q-シトクロムCオキシドレダクターゼ)を介してシトクロムCへ伝達される。(中略)Qサイクルが1回転すると、2分子のQH2が2分子のQに酸化され膜間腔に4個のプロトンH+が遊離する。続いてマトリックスから2個のH+が汲み上げられて、1分子のQは還元されて1分子のQH2になる。(同 p117)

 還元型シトクロムCは複合体IV(シトクロムCオキシドレダクターゼ)により酸化される。それに伴って、酸素は還元されて水2分子となる。(中略)一対の電子がNADHまたはFADH2から呼吸鎖を通過するごとに2H+が複合体IVによって膜を横切って汲み出されることになる。(同 p118)

 と、このように呼吸鎖とはプロトンを渡していく過程で、マトリックスから膜間腔にプロトンを汲み上げるもののようだ。

 ミトコンドリアの内膜は選択的にしか物質を通さないから、プロトンは膜間腔に多くなってマトリックスとの間に濃度勾配が出現する。ミトコンドリアの内膜にはATP合成酵素があって、そこはプロトンが通過できるようになっている。ATP合成酵素を通ってマトリックスの内側にプロトンが移動すると、ATPが合成される。

 呼吸鎖で生まれたプロトンの濃度勾配が、ATPを合成する。呼吸鎖(酸化)とATP合成(リン酸化)はこのように強く強く結びついている。これが「共役」だ。

 ミトコンドリアの呼吸速度はADPの有効性によって制御される。これは酸化とリン酸化が強く共役しており、呼吸鎖の酸化反応はADPのリン酸化反応を起こさずには進行しないからである。(同 p120)

 これでようやく脱共役の話になる。

 呼吸鎖とATP産生は通常共役しているけれど、脱共役剤はこの共役を、どうやってか知らないけど、抜け出させてしまう。呼吸鎖の過程でプロトンは膜間腔に貯まる。膜間腔に貯まったプロトンは、普通ならATP合成酵素を通過してマトリックス側に移動することになるけど、脱共役剤はATP合成酵素を通らずに内膜を通過させ、プロトンマトリックスに戻してしまう。結果、ATPは合成されない。

脱共役剤はイオンの膜への透過性を増加させプロトン勾配を打ち消すように作用する。すなわち、脱共役剤はプロトンH+を膜から漏入させてしまい、ATP合成酵素を経由させない。このようにして、脱共役剤は呼吸鎖の複合体を通じてATP合成とは共役しない電子の流れを生じさせる。(同 p119)

 脱共役たんぱく質は「生理的脱共役剤」(p121)で、「高エネルギーリン酸の形に転換されず、つまり補足されずに残った自由エネルギーは、熱として放出される」(p120)という。冒頭の記事に戻れば、にんにくを食べて脱共役たんぱく質が増えれば、エネルギーは発熱に向かって肥満予防になるでしょう。ということになる。