たぶん一番使う栄養学――風邪をひいたときの食事

 ちょっと体調を崩して熱なんか出したりしているから、今の自分にはどんな栄養素が必要なのかを調べてみた。

 発熱時の一般的な栄養として、

 (1)カロリーと栄養素 発熱のさいには食欲減退、栄養摂取の減少とともに消化・吸収能力も衰え、胃腸障害を起こす。このため消化のよいもの、脂肪をさけ糖質とたんぱく質を主とし、30〜35kcal/kg(〜2000kcal)を与える。
 ことに、体タンパク質の分解、消耗が亢進し、タンパク質出納が負となるから、高タンパク食(1.5〜2.0g/kg)とし、栄養価の高い良質の動物性タンパク質を補給する。

 (2)水と電解質、ビタミン (略)また発熱時にはビタミンの消耗も著しいから、ビタミン欠乏にならないよう、ことにAやB1、Cを豊富に与えるが、総合ビタミンの投与も考慮する。
(『新しい臨床栄養学』p244-245)

 発熱で代謝が亢進して、エネルギー必要量が増加する。だから糖質需要が増えて、その結果糖質代謝に関与するビタミンB1必要量が増すわけだ。たんぱく質の出納が負になる理由も、

さらに食欲は低下し栄養不足から体内の脂肪やタンパクが分解して、呼吸商RQ(CO2/O2比)は低値(〜0.7)となる。
(同 p244)

というから、糖質摂取がままならないときにエネルギー源として使われてしまうんだろう。だとすれば、糖質が十分摂取できれば体たんぱくの分解は防げるんじゃないか。

 ビタミンCについてはよくわからない。「健康食品の安全性・有効性情報」のビタミンCでは

この効果に対しては多くの矛盾した根拠が存在する。大多数の結果は、ビタミンCの大量摂取が風邪の症状の期間を1〜1.5日ほど短くするようだという効果を支持している。但し一日1〜3gの摂取は副作用の出るリスクも上昇する。

健康食品の安全性・有効性情報

と一応風邪の期間を短くする結論が多いとしながらも、投与量はなんと1g〜3gで、これは普通の食品からは摂取できない量だだろうし、さらに副作用のリスクを指摘している。副作用は、「許容上限摂取量(UL)成人:2000mg/日を超える量を摂取することは、浸透圧性の下痢や胃腸の不調などの有意な副作用のリスクを増加させる可能性がある」(同上)というもの。

 まあ、なんかたいしたことなさそうに思えてしまうけど、実際にこれになったことないから副作用にさらされたときの辛さがわからないだけかもしれない。

 ハーパーさま(『イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書27版』)でも、

ビタミンCの高投与が風邪の症状の強さや罹患期間を短縮することはあり得るが、予防することができるというよい証拠はほとんどない。
(『イラストレイテッド ハーパー・生化学』p534)

というから、ちょっと風邪の期間が短くなる(1日〜1.5日ね)ことはあっても、予防とまではいかないみたい。今回はもう熱が出ているから予防にはならなくてもいいんだけど、世間一般のビタミンCイメージとは少し違うね。消耗が激しいのだから摂らないよりは摂ったほうがいいんだろうけど、通常量の摂取では大きな期待はできないみたいだ。

 ビタミンAについては、免疫といえばビタミンAだから、そんなに不思議ではない。

ビタミンAは免疫系にも重要な役割をしており、免疫細胞の分化に必要である。軽度の欠乏だけでも易感染症を起こす。さらに、感染によりレチノール結合たんぱく質(これは負の急性期たんぱく質である)の合成が減少し、体循環中のビタミンA濃度が減り、免疫反応を低下させる。
(同 p521)

 緑黄色野菜はよく食べてるほうだとは思うけど、風邪をひくとビタミンAを運ぶレチノール結合たんぱく質がが少なくなって、結果的に体内でビタミンAが足らなくなってしまうみたいだ。運び屋がいないのにたくさん摂ることに意味があるのか疑問があるけど、確かたんぱく欠乏状態のマウスを用いた実験では、ビタミンAの大量投与で免疫能が回復された*1というから、摂取することで体内のビタミンA濃度を上げることが可能なんだろう。*2

 ほかに記憶では、『栄養療法事典―病気を食事と栄養で治す自然な療法』に亜鉛が風邪の期間を短くするようなことが書かれていた気がするんだけど、健康食品の安全性・有効性情報の亜鉛の項では、「現時点ではポジティブな結果とネガティブな結果の両方が存在して」いるというから、信じる人は多めに摂取してもいいのかもしれない。でも、「風邪の予防にはサプリメントからの亜鉛の摂取は効果が無いと考えられる」らしいから、摂取する場合は食品から摂取したほうがいい。

 結論としては、糖質とたんぱく質をしっかりとって、糖質代謝に必要なB1と免疫系のAを摂りましょう。あとは慰め程度にCと、神頼みのときの亜鉛とか。くらいでどうでしょう。

 もっとも、こんなの書いてるよりも早く寝るのが一番だと思うけど。

*1:「低タンパク質マウス群の小腸粘膜中のIgA、IL-4、IL-5量は、正常タンパク質群に比べ有意に低下していた。しかしビタミンA(1mg retinyl acetare)は、この低タンパク質栄養により低下したIgAとIL-5量をほぼコントロールレベルにまで回復した」(サイトカイン受容体欠損マウスを用いた小腸粘膜免疫能に対するビタミンAの賦活効果の解析 日本栄養·食糧学会 第54巻 第4号 2001 247-252)

*2:ヒト換算するとかなり「大量」のビタミンAで、「ヒトに応用するにはその副作用が大きな問題となる」みたいだけどね。