基礎代謝基準値の文献を調べてみた
基礎代謝の幅ってどの程度なの?
朝食食べた食べないで(?)簡単に変わってしまうかもしれない基礎代謝ですが、では一体全体、どの程度の幅があるものなんでしょうか。
厚生労働省策定 日本人の食事摂取基準〈2005年版〉で参考文献に挙げられている、日本人を対象にした基礎代謝量を測定した研究は5つあります。そのうち、「朝食を食べないと(以下略)」で紹介した「食習慣と骨粗鬆症」*1と同じく若年女性を対象とした、または対象に含む研究は2例で、「ヒューマンカロリメーターを用いて測定した座位中心の生活における1日当りのエネルギー消費量」*2と「女性持久性競技者の基礎代謝量」*3がそれにあたります。
前者は、ヒューマンカロリーメーターという、出入りする空気を完全にコントロールできる部屋*4で対象者を生活させて、室内や排気される空気の酸素、二酸化炭素濃度の変化から、一日の消費エネルギーその他を計算したものです。対象者は日本人の成人男子21名(平均年齢30±11)と成人女子20名(平均年齢32±10)で、
実測BMR*5(kcal) | 体重(kg) | 体重あたりのBMR(kcal/kg) | |
---|---|---|---|
男性 | 1586±257 | 70.5±12.6 | 22.50±3.65 |
女性 | 1155±123 | 53.2±6.1 | 21.71±2.31 |
という結果だそうです*6。体重あたりのBMR(基礎代謝量)は、わたくしが単純に実測BMR±標準偏差を平均体重で割って出しました。だからたぶん、厳密に計算すれば違う結果になるんでしょう。
さて、この結果を見ると、体重あたりの基礎代謝量*7には女性で±2.31の標準偏差があることがわかります。「食習慣と骨粗鬆症」の朝食欠食群(19〜25歳の若年女子)は、先のエントリからさまざまな仮定を引き継いで*8計算すれば、体重あたりの基礎代謝量=21.35kcal/kgとなります。
彼女らの年齢階級における基礎代謝基準値が23.6kcal/kgですから、21.35kcal/kgは立派に標準偏差の範囲に入ってきます*9。ということは、もちろん随分下に固まってはいるものの、あり得るべき幅として見ていいのかもしれません。
次に「女性持久性競技者の基礎代謝量」ですが、これはスポーツ選手の基礎代謝量データは男性のものが多く女性のものが少ないことから、女性のランナー(16名、平均年齢19.1±2.4)、ボート競技者(8名、平均年齢19.8±1.7)と、対照群として非運動選手(19名、平均年齢20.1±0.7)の基礎代謝量その他を計測したものです。
これによると、
体重あたりのBMR(kcal/kg) | |
---|---|
非運動群 | 23.3±2.3 |
ランナー | 26.0±3.1 |
ボート | 23.9±3.9 |
全体 | 24.4±3.2 |
という結果だったそうです*10。全体との比較ではもちろん、非運動選手群と比較しても基礎代謝が低い「食習慣と骨粗鬆症」の朝食欠食群ですが、しかしそのどちらとの比較であっても、標準偏差の下限近くには入れています。やっぱり、あり得る幅の範囲である、と言えるのかもしれません。
栄養によって基礎代謝は変わるの?
体重と基礎代謝量との関係を見たもののほかに、「女性持久性競技者の基礎代謝量」では摂取栄養量による基礎代謝量への影響も取り上げられています。非運動群では有意な相関関係が認められなかったものの、全体と、ランナー、ボート競技者では、それぞれ1日あたりのエネルギー摂取量と基礎代謝量との間に有意な正の相関関係が認められて*11、さらにたんぱく質の摂取に関しても同様な関係が認められたと言います。
以上より、(略)持久性競技者のBMR(kcal/kg/BW/日)は、体格のほかに体重当たりのエネルギー及びたんぱく質摂取量にも影響を受けることが明らかとなった。
朝食欠食者はエネルギー摂取量もたんぱく質摂取量も低いから、基礎代謝量に影響があってもおかしくはなさそうですけど、ただ非運動群だと有意な相関関係はないというし、この種のほかの研究も見てみたい。
たとえばこんなの。
(食事制限で無月経になるランナーがいるが)正常月経ランナーと無月経ランナーを比較すると、無月経ランナーのほうが摂取エネルギー量が低く、BMRにも変化が生じている可能性がある(未発表データ)。
未発表データって!
基礎代謝は除脂肪体重で考えるといいらしいよ!
ちなみに、「女性持久性競技者の基礎代謝量」によれば、体重あたりの基礎代謝量では有意差があった非運動群とランナー群も、脂肪を除いた体重(除脂肪体重:LBM)あたりの基礎代謝量で比較すると有意な差はなくなるし、また、LBMあたりの基礎代謝量では、運動のタイプが異なっていても、さらには肥満であろうとなかろうと差がないとする数々の先行研究を紹介したのちに、
Counninghamは、性や年齢を考慮しなくても、LBMによりBMRを予測できることを示している。
とおっしゃいます。
せっかくですので、男性も女性も対象になっていた「ヒューマンカロリメーターを用いて(以下略)」でそれを確かめてみると、
LBM(kg) | BMRkcal) | BMR/LBM(kcal/kg) | |
---|---|---|---|
男性 | 60.1 | 1586 | 26.39 |
女性 | 42.8 | 1155 | 26.99 |
おお、見事にほぼ同じ数値になりました。
「女性持久性競技者の基礎代謝量」のほうでLBMあたりのデータを見ると、
BMR/LBM(kcal/kg) | |
---|---|
非運動群 | 30.7±3.3 |
ランナー | 31.1±3.6 |
ボート | 29.1±3.8 |
全体 | 30.6±3.5 |
で、こちらもほぼ同じ数値が並んでいますが、「ヒューマンカロリメーターを用いて(以下略)」のデータと比べてみると、全然値が近くありません。
なんでだろう、と思ったんですが、たぶんこれは除脂肪体重の計測法が異なるからでしょう。「ヒューマンカロリメーターを用いて(以下略)」はキャリパーで2点つまんで皮下脂肪厚を測定してそれから計算で体脂肪率を求めているのに対して、「女性持久性(以下略)」は空気置換法体脂肪測定装置によって体密度を測定し、そこから計算で体脂肪率を求めています。
空気置換法ってなんじゃらほいと思ってgoogle先生に聞いてみたら、なんか素晴らしくよさそうなもので、水中法とよく相関するらしいじゃないですか。逆にキャリパーの特に2点測定法はかなりの誤差が生じるというし、この両者の測定法の違いがこんな結果を生んだ原因なんじゃないでしょうか。
*1:尾上佳子, 太田博明: 臨床栄養 Vol. 114 No.5 2009.5
*2:田中茂穂, 田中千晶, 二見順, 岡純, 高田和子, 柏崎浩. 日本栄養・食糧学会誌:56(5), 291-296, 20031010
*3:田口素子, 樋口満, 岡純, 他. 栄養学雑誌:59(3), 127〜134, 2001/6
*4:って、たぶんすっごくわかりづらい説明。こことかこことかを見て感じてください。
*7:=計算で基礎代謝量を求めるときには基礎代謝基準値となるもの、でしょ。
*8:つまりは、朝食摂食群の摂取カロリー=必要カロリーであって、身体活動レベルが朝食摂食群といっしょの1.55であるとすれば。
*9:体重あたりの基礎代謝量で見るとこの場合21.71と21.35だからほぼ同じという結果なのだけれども、対象者の年齢が異なっているのでそのまま比較はしませんでした。ただ、そんなこと言ったら、おそらくは幅だってあてにすんな、というのが正しい態度なのだろうけど。
*10:ランナー群は非運動群と比較して、有意に高値(p<0.05)。
*11:これ、エネルギー量多く食べるから基礎代謝が多くなるのか、基礎代謝が多いからエネルギーをたくさん摂ることになるのか、両方考えられると思うけどどうなんだろう。