イメージと違った、牛乳の食後高血糖抑制作用

 ものすごく勝手なイメージかもしれませんが、低GI=食後の糖の消化吸収が穏やか、というイメージを持っていました*1。これがどこから来たものなのかと言えば、おそらくはトクホの「血糖値が気になるかた」向け食品の関与成分が、二糖類分解酵素とかショ糖分解酵素を阻害したり、吸収を遅延させる作用を持っている、というのを読んだことが影響していると思われます。

”血糖値が気になり始めた方の食品”として売り出されている特定保健用食品には、(略)これらは、ほとんどがα-グルコシダーゼ活性を抑制し、糖の吸収を穏やかにする(軽度抑制する)食品であり、食後の血糖値の上昇の抑制をねらった食品である。
(『健康・栄養食品アドバイザリースタッフ・テキストブック』p274)

 これらの関与成分は、その後3ページほど使って細かく説明されています。そのなかにある、対照群と比較した食後血糖値の推移グラフによれば、トウチエキスを除いた4つの成分で、食後30分で対照群と比較して血糖値が有意に低くなっています*2

 もっと以前にも、たとえば

同量の炭水化物を含む食品では、血糖指数値(GI値)が高いほど、より迅速かつ強力に血糖値やインスリン値に影響を与える。
(「最強の抗糖尿病薬〜未精製炭水化物〜*3

 簡単に消化できる炭水化物であふれるばかりのスナックや食事をした場合、その結果出たインスリンの洪水は、グルコースレベルを下げすぎてしまう。(略)ゆっくりと消化される全粒穀物の炭水化物の多い食事であれば、このグルコースインスリンのローラーコースターを傾斜の緩やかなものにする。
(同上)

なんてのを読んで、なるほど、低GIとは血糖値やインスリン値に緩やかな影響しか与えない=糖分の消化吸収が穏やかなのだと合点していたのでした。

 ところが、「女子学生における牛乳の脂肪量による食後高血糖抑制効果の検討」を読むと、これが一概にそういうものばかりではないようなのです。

「女子学生における牛乳の脂肪量による食後高血糖抑制効果の検討」は、健康な女子学生7名に基準食としてご飯147gとお茶200ml、試験食として無脂肪乳、低脂肪乳、混合牛乳*4、高脂肪乳を200mlと、それぞれにプラスして基準食と同糖量となるご飯を摂取させた際の血糖値とインスリン値の変化を、食後15、30、45、60、90、120分に測定して変化を見たものです。これによると、GIは基準食と比較して、低脂肪乳、混合牛乳、高脂肪乳の三種類で有意に低下したそうです。また、血糖値は基準食と比較して、無脂肪乳、低脂肪乳、混合牛乳の三種では食後90分に、高脂肪乳では食後15分、30分、90分でそれぞれ有意な低値を示しているとあります。

 気になったのは高脂肪乳以外の三種類が「食後90分」で有意に低値を示したというところです。グラフを見ると、標準偏差の幅はかなり大きくはありますが、食後45分までは基準食よりもむしろ無脂肪乳と混合牛乳のほうが血糖値が高いです。実際無脂肪乳は、食後30分では高脂肪乳と比較して有意に高値ですらあるのです。

 にもかかわらず、食後90分で基準食と比較して有意に低値って、それ「インスリンの洪水」なんじゃないかとインスリン値の推移グラフを見れば、基準食と比較してすべての牛乳でインスリン値が大幅に上昇しています。

 インスリン反応においては、ご飯と牛乳を摂取したとき、基準食と比べてすべての牛乳において30、45分、60分域で有意な高値を示した。
(「女子学生における牛乳の脂肪量による食後高血糖抑制効果の検討」)

 グラフから読み取った値を再グラフ化したものなので、正確な数値ではありません。また、もとのグラフにはかなり大きな標準偏差の幅が示してあります。

 このμU/mlの単位がどの程度のものなのかはまったくわかりませんが、以前カロリー制限に関連して読んだ、インスリンIGF-1が減少するとFoxo1の抑制が減弱して、そのあとどーのこーのでなんか寿命のびるらしいよ。な記事*5かずさDNA研究所の講演から、低インスリンが体にいいと思い込んでしまっているので、この牛乳の低GIが体に好影響なのかどうか、判断に迷ってしまいます。

 もとの「女子学生における牛乳の脂肪量による食後高血糖抑制効果の検討」に戻れば、牛乳に含まれる脂質やたんぱく質が糖質の吸収を遅延させたという報告もあり、インスリン分泌亢進しただけの低GIではなさそうではあります。しかしながら、やはり牛乳によってインスリン分泌量が増加するという報告もあり、また、

Nilssonらは、ミルクたんぱく質インスリン分泌特性があることを証明している。
(同上)

そうです。

 もっと調べてみないとなんとも言えないですけど、牛乳の低GIってどうなの疑惑が芽生えた、というお話なのでした。

*1:というか、今も捨てきれてません。

*2:トウチエキスは、食後30分では有意差ありのマークがなく、食後60分で有意に低くなっている。んだけど、見た目では食後30分だってかなり低いと思うんだけどなあ。

*3:前田和久 臨床栄養 Vol.111 No.2 2007.8

*4:無脂肪乳:高脂肪乳=1:1

*5:千葉卓哉 下川 功「カロリー制限による寿命延長の分子機構」医学のあゆみ Vol.217 No.7 2006.5.13